理化学研究所(理研)や東京大学らによる国際共同研究グループは、トポロジカル反強磁性体である「Mn3Sn」単結晶薄体の表面に蓄積する面直スピン(面直スピン蓄積)を用いて、有効磁場(FLトルク)を発現させることに成功した。
理化学研究所(理研)や東京大学らの研究者による国際共同研究グループは2021年11月、トポロジカル反強磁性体である「Mn3Sn」単結晶薄体の表面に蓄積する面直スピン(面直スピン蓄積)を用いて、有効磁場(FLトルク)を発現させることに成功したと発表した。このFLトルクは、白金などの遷移金属に比べ数倍大きいことが分かった。
国際共同研究グループはこれまで、トポロジカル反強磁性体におけるスピンホール効果が従来とは異なることを明らかにしてきた。それは、トポロジカル反強磁性体の微小磁化方向(磁気八極子の向き)を変えることによって、表面に蓄積するスピンの偏極方向を制御できる「磁気スピンホール効果」のためだという。併せて、スピン蓄積が面直方向に偏極することも理論的に予測していた。
今回は、この面直スピン蓄積に注目。隣接する磁性体に与えるトルクについて、実験を行い調べることにした。実験を行うため、集束イオンビームを用い、Mn3Sn単結晶をマイクロメートルサイズの薄体に加工。その上に強磁性体である「NiFe合金」の膜を形成して、スピントロニクス素子を作製した。
そして、磁気八極子の向きを変えて、スピントルク強磁性共鳴の実験を行った。この結果、Mn3Snに直流電流を流すと、磁気八極子の向きに依存して面直方向のFLトルクが発現することが分かった。これは、表面に蓄積したスピンが磁場のように機能し、さらにMn3Snが磁化反転することによって、面直スピン成分が反転したことを示すものだという。
研究グループは、スピントルク強磁性共鳴スペクトルの面内磁場角度依存性と理論モデルの比較も行った。これにより、面直スピンによるFLトルクとほぼ同じ大きさで、面内には偏極したスピン(面内スピン)によるスピントランスファートルク(STトルク)が共存していることが分かった。
これらの結果から、Mn3Snの磁気八極子の向きを面内で回転させると、表面に蓄積するスピンの偏極方向が、面直上向きから下向きへと変化。しかも、これらのトルクは、白金など従来の遷移金属を用いた場合より、5〜9倍も大きくなることが分かった。
研究グループは今後、トポロジカル磁性材料をスピントルク源として利用すれば、高速で省電力のスピントロニクスデバイスを設計開発することが可能になるとみている。
今回の成果は、理研創発物性科学研究センター量子ナノ磁性チームの近藤浩太上級研究員や大谷義近チームリーダー(東京大学物性研究所教授)、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の中辻知教授、肥後友也特任准教授、東京大学物性研究所の冨田崇弘特任助教ら、国際共同研究グループが行った研究によるものである。
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