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カゴメ格子強磁性体Fe3Snで巨大な磁気熱電効果効果の起源はノーダルプレーン

東京大学の研究グループは、東北大学らの研究グループと協力し、鉄(Fe)原子がカゴメ格子を形成した強磁性体Fe▽▽3▽▽Snの多結晶体において、巨大な磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)が発現することを発見した。その効果の起源は、「ノーダルプレーン」と呼ばれる電子状態であることも明らかにした。

» 2022年01月21日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

Fe単体に比べ磁気熱電効果は約10倍、磁気転移温度は490℃

 東京大学の研究グループは2022年1月、東北大学らの研究グループと協力し、鉄(Fe)原子がカゴメ格子を形成した強磁性体Fe3Snの多結晶体において、巨大な磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)が発現することを発見したと発表した。その効果の起源は、「ノーダルプレーン」と呼ばれる電子状態であることも明らかにした。

 熱電変換技術として、「ゼーベック効果」や「磁気熱電効果」に基づく研究が行われてきた。特に近年は、起電力が温度勾配に対して垂直に生じる磁気熱電効果を利用した発電が注目されている。発電方向を磁化の方向で制御できるため、大面積で無接合のモジュール構造が可能になるためだ。ただ、磁気熱電効果が増大する機構については十分に解明されていなかったという。

 研究グループはこれまで、鉄系の磁性材料に注目し、高い磁気熱電効果を有する材料を探してきた。Feは身の回りに多く存在し、安価で応用に適した材料であるからだ。今回の研究では、Feとスズ(Sn)からなるカゴメ格子強磁性体Fe3Snの多結晶体が、Fe単体に比べ約10倍という大きな磁気熱電効果を示すことを明らかにした。磁気転移温度は490℃と高く、さまざまな環境での動作が期待できるという。

上図は磁気熱電効果を活用した熱電変換モジュールとFe3Snの結晶構造の概念図。下図はカゴメ格子強磁性体Fe3Snにおける磁気熱電効果 出所:東京大学他

 研究グループは、第一原理計算を用いたコンピュータシミュレーションによる磁気熱電効果の性能予測と電子状態・波動関数の性質の解析を行い、カゴメ格子強磁性体Fe3Snにおける磁気熱電効果の起源も明らかにした。

 解析の結果、「ノーダルプレーン」と呼ばれる特異な電子状態が、「ベリー曲率」と呼ばれる磁気熱電効果の起源となる物理量を増強していることが分かった。ベリー曲率は、カゴメ格子強磁性体Fe3Snの運動量空間上の高対称点を結ぶように存在し、カゴメ格子の持つ対称性に由来しているという。このような電子状態はFe3Sn特有のものではなく、カゴメ格子を有する材料であれば発現する可能性があり、今後の材料探索にも適用できるという。

運動量空間におけるノーダルプレーンとそれにより誘起する巨大なベリー曲率 出所:東京大学他

 今回の研究成果は、東京大学大学院理学系研究科の見波将特任研究員、酒井明人講師、中辻知教授らの研究グループと、東北大学大学院理学研究科の是常隆准教授(理化学研究所創発物性科学研究センター計算物質科学研究チーム客員研究員)、東京大学大学院工学系研究科の野本拓也助教(理化学研究所創発物性科学研究センター計算物質科学研究チーム客員研究員)、平山元昭特任准教授(理化学研究所創発物性科学研究センタートポロジカル材料設計研究ユニットリーダー)、有田亮太郎教授(理化学研究所創発物性科学研究センター計算物質科学研究チームリーダー)らによるものである。

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