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» 2022年02月15日 11時30分 公開

シリコンフォトニクス技術「COUPE」が導波路とファイバを高い効率で結ぶ福田昭のデバイス通信(346) TSMCが開発してきた最先端パッケージング技術(19)(2/2 ページ)

[福田昭,EE Times Japan]
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シリコン光導波路と光ファイバを結合する2つの手法

 既に前回でも述べたが、電気信号を光信号に変換(あるいはその逆に変換)する回路ユニット「フォトニックエンジン(PE:Photonic Engine)」は、電気回路部(EIC:Electrical IC)と光回路部(PIC:Photonic IC)に分かれている。どちらもシリコンダイに回路を形成してある。

 光回路部(PIC)は、シリコン基板にBOX(Buried OXide)と呼ぶ二酸化シリコン(SiO2)層を作り、その上にシリコン結晶(Si)層を重ねた「SOI(Silicon On Insulator)」構造のシリコンダイである。シリコンダイの表面に、光検出器(PD:photodetector)と光変調回路(MOD)、シリコン光導波路、光ファイバと光導波路の結合素子(Coupler)を搭載する。

 シリコン光導波路は通常、シリコン層(屈折率が約3.5の高屈折率層)をコア、二酸化シリコン層(屈折率が1.4〜1.5の低屈折率層)をクラッドとする。コアの光スポット径は0.2μm〜0.3μmと小さい。これに対して標準的な光ファイバ(シングルモードファイバ)の光スポット径は9μm〜10μmとかなり大きい。そのままだと光導波路と光ファイバは接続の損失が極めて大きなものになってしまう。

光回路部(PIC:Photonic IC)の構造と光ファイバとの結合方法。左はPICの断面構造例。光部品、回折格子型結合器(GC)、エッジ型結合器(EC)を模式的に描いた。中央の(A)は光部品(光検出器(PD)と光変調回路(MOD))。(B)はGCの断面模式図。(C)はECの断面模式図[クリックで拡大] 出所:TSMC(Hot Chips 33の講演「TSMC packaging technologies for chiplets and 3D」のスライドから)

 この光導波路と光ファイバを結合する手法は主に2つ、存在する。1つは回折格子型結合器(GC:Grating Coupler)、もう1つはエッジ型結合器(EC:Edge Coupler)である。ここでは導波路の光ビームを結合器を経由して光ファイバに通す場合を考える。

 GCでは、光導波路の一部に回折格子を形成する。回折格子によって光をシリコンの表面から、垂直に近い斜め上の方向に持ち上げる。回折格子はまた、光のスポット径を広げる役目を担う。製造は比較的容易で、理論的な接続効率は高い。しかし高い接続効率の実現には、回折格子の表面がクリーンであること、回折格子と光ファイバを高い精度で位置合わせすることといった条件がある。また標準的な1次元(1D)の回折格子には偏光依存性があり、特定の偏光モードだけを効率良く結合する。波長依存性はかなり強い。

 ECでは、光導波路の端面(エッジ)と光ファイバの端面(エッジ)を対向させる。GCに比べると偏光モード依存性と波長依存性は弱い。ただし、光スポットの違いを変換する素子「スポットサイズ変換器(SSC:Spot Size Converter)」を必要とする。例えば光導波路の端面付近にSSCを作り込む。

 SSCの問題は主に2つある。1つはマルチモードの発生である。通常、光導波路内の光ビームは基本モード(ファンダメンタルモード)を維持したまま、SSCによって拡大する。しかしスポット径を拡大すると基板側シリコンの高い屈折率が光ビームに影響し、基本モードよりも次数の高いモードが伝搬してしまう恐れがある。光ファイバはシングルモードであり、基本モードだけを受光する。そこでマルチモードの発生を防ぐために、光導波路端面付近ではBOX直下のシリコンを削る(アンダーカット)ことが考えられている。ただしアンダーカットのプロセスはかなり複雑である。さらに、端面付近の構造が機械的にぜい弱になるという課題を抱える。

 もう1つは、SSCの加工精度に対する厳しい要求である。SSCでは光導波路のコアに相当する部分を少しずつ水平方向および垂直方向に広げる(水平方向だけのこともある)。0.3μmと小さな光スポットを30倍の9μmに拡大するためには、かなりの長さが必要となり、その長さにわたって高い精度を維持しなければならない。そこで光導波路でのスポット径拡大は4μm(10倍程度)にとどめ、端面のコア径が4μmと小さな光ファイバ(スポットサイズ変換ファイバ)と接続する手法が光ファイバメーカーなどから提案されている。

GCで−1.03dB、ECで−1.6dBと低い接続損失を実現可能

 TSMCは独自開発のフォトニックエンジン(PE:Photonic Engine)「COUPE」に、新開発の光ファイバ結合器を組み込むことを想定した。開発した回折格子型結合器(GC)とエッジ型結合器(EC)はいずれも、過去の光ファイバ結合器が抱えていた課題を部分的に解決する。

 回折格子型結合器(GC)では、回折格子の表面を絶縁体で被覆して光ファイバを取り付けることで光路を確保した。1次元(1D)のGCで波長1310nmのTE(Transverse Electric)モード光を結合したときの接続損失(IL:Insertion Loss)は、シミュレーションによると−1.03dBとかなり低い値になる。

TSMCが考案した回折格子型結合器(GC)とエッジ型結合器(EC)の性能(シミュレーション結果。左はGCの接続損失(IL)、右はECの接続損失(IL)。いずれも波長依存性がある[クリックで拡大] 出所:TSMC(Hot Chips 33の講演「TSMC packaging technologies for chiplets and 3D」のスライドから)

 エッジ型結合器(EC)では、SSC直下のシリコン基板をアンダーカットするときに選択的に取り除く技術を導入してプロセスを簡素化した。またカットした部分に固体の絶縁物を均一に埋め込むことで機械的な強度を確保した。シミュレーションによる接続損失(IL)は、波長が1310nmのときにTEモードとTM(Transverse Magnetic)モードがいずれも−0.6dBとかなり低い。また偏光依存損失(PDL:Polarization Dependent Loss)は、波長が1310nmのときにゼロとなった。

(本シリーズ完結)

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