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界面の魅力と日本半導体産業の未来 〜学生諸君、設計者を目指せ!湯之上隆のナノフォーカス(47)(3/7 ページ)

» 2022年02月24日 11時30分 公開

先端トランジスタの極薄チャネルの問題

 先端ロジックCMOSのトランジスタ構造は、FinFETからNanosheetsのGate All Around(GAA)構造に代わり、さらにそれが3次元化すると予測されている(図4)。そして、その先は、2次元材料が使われるということが業界の共通認識になってきている。

図4:トランジスタ構造の変化[クリックで拡大] 出所:高木信一(東京大学),“先端ロジックCMOS のためのチャネル材料・デバイス技術“のスライド、2022年、電子デバイス界面テクノロジー研究会、招待講演

 東京大学の高木信一教授は、『先端ロジックCMOSのためのチャネル材料・デバイス技術』の招待講演で、2次元材料に移行するまで使われるであろうGAA構造等において、チャネルが薄くなってくると電子の移動度が低下するという問題を取り上げた。

 チャネル材料としては、高Ge濃度のSiGeやGeなどが当面期待されている。ところが、図5の右上の赤枠で示したように、チャネルが薄くなってくると、MOS界面の凹凸やチャネル膜厚の揺らぎによって、電子が散乱される。すると、それが原因で、同図の左の青枠のグラフに示したように、チャネル移動度が急激に低下してしまうのである。つまり、先端トランジスタの高速動作のためには、チャネルの“界面”制御が必要不可欠になるというわけだ。ここで、SOIはSi On Insulatorの略、GOIはGe On Insulatorの略である。

図5:トランジスタのチャネル膜厚と移動度の関係[クリックで拡大] 出所:高木信一(東京大学),“先端ロジックCMOS のためのチャネル材料・デバイス技術“のスライド、2022年、電子デバイス界面テクノロジー研究会、招待講演

 高木先生の研究室では、Siプラットフォーム上の極薄膜のGeやInAsなどのIII-V族半導体チャネルに対して、Siチャネルを上回る性能が実現できるか、どの程度の薄膜化にも耐えうるのかを、長年にわたり実験的・理論的に研究してきた。そのベンチマークの結果を図6に示す。

図6:各種半導体材料とチャネル移動度のベンチマーク[クリックで拡大] 出所:高木信一(東京大学),“先端ロジックCMOS のためのチャネル材料・デバイス技術“のスライド、2022年、電子デバイス界面テクノロジー研究会、招待講演

 Si、Ge、InAsの各チャネル材料について、それぞれ3nmと2nmの膜厚で移動度を比較したところ、全ての材料において、表面ラフネスを低減することができれば、チャネル膜厚2nmまでは2次元材料よりも高い移動度を実現できることが分かった。特に、InAsで面方位(100)を使った場合の移動度は高い。また、Geの(111)の面方位の場合、Siの(100)をはるかに上回る高移動度が実現できることが理論的にも実験的にも明らかになった。

 ことし2022年にはSamsungが3nmノードのトランジスタにGAAを採用する。またTSMCは、2024年に量産を開始する2nmノードからGAAを量産適用する。高木先生の研究成果は、GAA構造のトランジスタの、今後の高速動作の可能性を提示したことになる。

人工知能(AI)を使ったプロセス開発

 高木先生の発表で示されたように、先端半導体は、原子や分子の凹凸がその性能を左右する時代に突入してきている。そのため、成膜やエッチングにおいても、原子分子を一層ずつ積むAtomic Layer Deposition(ALD)や、一層ずつ剥ぎ取るAtomic Layer Etching(ALE)が普及しつつある。

 冒頭で述べた通り、これも”界面“制御の問題である。そしてその課題とは、そのプロセスをいかに精確に、かつ効率的に開発するかということにある。この課題に対して現在、プロセス開発にAIを利用する動きが活発になってきている。

 本研究会では、東京エレクトロン(TEL)の守屋剛氏が、『インテリジェント制御による半導体製造装置のイノベーション』と題するチュートリアル講演を行い、ALDのプロセス開発に、深層学習(ディープラーニング)を含む「機械学習」を適用した事例を紹介した。

 半導体のプロセス開発では、新規プロセス手法が考案された後、プロセスの最適化とハードウェアの最適化が検討される。今回の発表では、TiO2のALDプロセスの膜厚を均一にする最適化問題について、経験豊富で優秀なプロセス技術者と機械学習の比較を行った。要するに、人間の技術者とAIの対決である。

 具体的には、Ar/O2混合ガスのプラズマにおいて、放電電力、持続時間、ガス流量を調整パラメータとした。そして、膜厚の不均一性を、ウエハー面内の49ポイントでの膜厚の1σと定義し、これを可能な限りゼロに近づけることを目標とした。

 その結果を図7に示す。技術者は、5回の試行によって不均一性の変動を収束できなかった。ところが、機械学習では、わずか2回目の試行で膜厚の最大と最小の差を0.7%まで縮めることができた。つまり、技術者よりも機械学習の方が素早く最適解を導きだしたわけである。

図7:人工知能(AI)によるプロセス最適化の一例[クリックで拡大] 出所:守屋剛(東京エレクトロン),“インテリジェント制御による半導体製造装置のイノベーション“のスライド、2022年、電子デバイス界面テクノロジー研究会、チュートリアル講演

 守屋氏によれば、TEL社内ではAIを利用する技術者が増えてきているという。そして、「ひと昔前にEXCELを使うようになったかのごとく、今はAIを使っている」とのことである。

 20年前にドライエッチング技術者だった筆者は、もはや自分が「絶滅した恐竜になった」と感じたほど衝撃を受けた。時代は大きく変わったのだ。

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