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界面の魅力と日本半導体産業の未来 〜学生諸君、設計者を目指せ!湯之上隆のナノフォーカス(47)(4/7 ページ)

» 2022年02月24日 11時30分 公開

注目したパネルディスカッション

 本研究会のパネルディスカッションでは、事前に48人の大学生にアンケートを取り、その結果に対して、異なる分野の4人のパネラーがショートプレゼンを行った。その4人は以下の通りである。

  • 半導体製造装置 辻村学氏(荏原製作所)
  • アナログのファウンドリー 立岩健二氏(タワーパートナーズセミコンダクター)
  • 半導体メモリ 青砥なほみ氏(Micron Memoryジャパン)
  • モビリティ 江口博臣氏 (ミライズテクノロジーズ)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によってリモートワークやネットショッピングが急速に普及するとともに、半導体不足が深刻化した。2021年の流行語大賞は、「半導体不足」ではないかと思うほど、各種産業にダメージを与えた。そのような中で、昨今の半導体を研究している大学生がどのような意識を持っているかについて筆者は大きな関心を持った。以下では、事前に行われたアンケート結果を示す。なお、このアンケートは、名古屋大学大学院 工学研究科 物質科学専攻の中塚 理教授が調査を行い、まとめたものである。

大学生へのアンケート結果

 本研究会に先立って行われた大学生へのアンケートの内訳を図8に示す。回答者は48人であり、やや名古屋大学に偏重しているきらいがあるものの、大学生の集合意識を推し量る人数としては十分であると思う。

図8:事前に行われた学生へのアンケート調査(回答者の内訳)[クリックで拡大] 出所:第27回電子デバイス界面テクノロジー研究会、『企画セッション 半導体エレクトロニクス産業・工学の現在と将来展望』、2022年1月28日

 在学過程では、修士が66.7%と最も多く、次いで学部生20.8%、博士が12.5%となっている。日本では、理工系学部生は修士卒で企業などに就職するケースが多いため、このアンケートは就職を目前に控えた大学生の意識調査を反映していると言えるかもしれない。

 専門分野では、電気・電子系が最も多い47.9%、材料系が31.3%、物理系が20.8%だった。2000年以降に、日本の電機メーカーは、半導体部門を中心に大規模なリストラを行ったため、大学の電気・電子の人気が無くなったと聞いている。しかし、このアンケートの回答者48人の半分近くが電気・電子系であり、これも筆者が興味を感じた要因となった。

 では、アンケートの結果を紹介しよう。

【質問1 将来、どのような分野・業界で働きたいですか?(複数回答可)】

 最も希望が多かったトップ3は、1位半導体・エレクトロニクス製造装置(33人、68.8%)、2位エレクトロニクス・集積回路製造(28人、58.3%)、3位電子・化学材料(20人、41.7%)だった(図9)。

図9:事前に行われた学生へのアンケート調査 質問1の回答内訳[クリックで拡大] 出所:第27回電子デバイス界面テクノロジー研究会、『企画セッション 半導体エレクトロニクス産業・工学の現在と将来展望』、2022年1月28日

 簡単に言えば、東京エレクトロン(TEL)など装置メーカーが1位、ソニーやキオクシアなどの半導体メーカーが2位、ウエハー、レジスト、スラリ、薬液などの材料メーカーが3位ということになるだろうか。

 装置メーカーが1位なのは、TELが高年俸であることが影響しているかもしれない。また、日本の材料メーカーは世界的に強力な存在であることから3位になった可能性がある。

 一方、半導体メーカー(正確には「エレクトロニクス・集積回路製造」)が2位ということに、少々違和感を持った。もしかしたら、TSMCが熊本に工場をつくることが何らかの影響を与えているかもしれない。また、日本には、ローム、東芝、富士電機、サンケン電気など、パワー半導体メーカーが多く、この将来性を考慮してのことかもしれない。

【質問2 最近のニュースなどで取り上げられる半導体不足について知っていますか?】

 この質問に対して、よく知っている(19人、39.6%)、知っている(26人、54.2%)で、合計45人(93.8%)の学生が「知っている」と回答している(図10)。さすがに自分自身が研究している専門分野のニュースであるだけに、関心が高いようである。

図10:事前に行われた学生へのアンケート調査 質問2の回答内訳[クリックで拡大] 出所:第27回電子デバイス界面テクノロジー研究会、『企画セッション 半導体エレクトロニクス産業・工学の現在と将来展望』、2022年1月28日

 逆に、少数であるが、あまり知らない(2人)、まったく知らない(1人)という学生もいる。あまり世の中の動向には関心がない学生もいるということである(それはそれで構わないと思う)。

【質問3 半導体および関連する業界に「将来性」を感じますか?】

 この質問に対して、強く感じる(27人、56.3%)、ある程度感じる(20人、41.7%)となった(図11の左)。48人中1人が「あまり感じない」と回答しており、それ以外の47人(97.9%)は半導体に将来性を感じている。

【質問4 半導体および関連する業界で「働くことに魅力」を感じますか?】

 半導体関連業界で「働くことに魅力」を感じるかと問うと、強く感じる(16人、33.3%)、ある程度感じる(21人、43.7%)と、前向きな学生が37人(77.1%)となった(図11の右)。

図11:事前に行われた学生へのアンケート調査 質問3および4の回答内訳[クリックで拡大] 出所:第27回電子デバイス界面テクノロジー研究会、『企画セッション 半導体エレクトロニクス産業・工学の現在と将来展望』、2022年1月28日

 一方、どちらでもない(6人)、あまり感じない(3人)、全く感じない(2人)という回答があり、この業界で「働くことに魅力」を感じることができない学生が合計11人(22.9%)いた。

 つまり、質問3と質問4を総合して考えると、半導体関連業界には大いに将来性を感じるが、その業界で働くかと問われると、必ずしも「Yes」とは言えない学生が少なからずいるということである。そのように答えた11人は、とても正直な心内を打ち明けてくれたのではないかと思う。

 就職とは、その業界や会社に自分の運命を委ねるようなものである。少し調べれば、日本の半導体産業が衰退し続けてきた実態が分かるだろう。従って、そこに飛び込むことをためらうのは当然のことである。筆者は、日本半導体産業の衰退を止めることができなかった1人として、大きな責任を感じる。

 現在、世界的に半導体技術者が不足している。ところが、せっかく大学で半導体に関する専門分野を専攻しているのに、就職する際には異なる業界に進む可能性を示唆する学生がいる。

 日本政府は昨年2021年、突然豹変して「日本半導体産業を復活させる」などと言い出した。もし本気でそう考えるのなら、半導体関係を専攻した学生に、「ぜひ、半導体業界で働きたい」と思わせるような政策を立案するべきである。海外の半導体メーカーの誘致に4000〜5000億円を出すより先にやることがあるだろう。

【質問5 日本を出て、海外で働くことに魅力や興味を感じますか?】

 この質問は、就職後の数年間から生涯を含めてのアンケートである(図12)。その結果は、強く感じる(11人、22.9%)、ある程度感じる(21人、43.8%)、どちらでもない(5人、10.4%)、あまり感じない(10人、20.8%)、まったく感じない(1人)となった。

図12:事前に行われた学生へのアンケート調査 質問5の回答内訳[クリックで拡大] 出所:第27回電子デバイス界面テクノロジー研究会、『企画セッション 半導体エレクトロニクス産業・工学の現在と将来展望』、2022年1月28日

 筆者は、この回答を見て、昨今の大学生を頼もしく思った。というのは、数年間から生涯を含めて、海外で働くことに魅力や興味を感じる学生が合計31人(64.6%)もいたからである。もちろん、この学生が全て、その対象を半導体関連企業と考えているわけではないかもしれない。

 しかし、これだけ海外志向が強い学生が多いということは、素晴らしいことであると思う。自分の将来がかかっている就職において、日本だけでなく海外まで見渡している学生が多数いる。半導体では、ファウンドリーの世界1位は台湾に、メモリのチャンピオンは韓国に存在している。どうせやるなら、ぜひ、世界トップを目指して欲しいと思う。

 その上でさらに、筆者から、半導体関連への就職を目指している学生に、メッセージを送りたい。その前に、日本の半導体産業には致命的な欠陥があることを論じたい。

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