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界面の魅力と日本半導体産業の未来 〜学生諸君、設計者を目指せ!湯之上隆のナノフォーカス(47)(7/7 ページ)

» 2022年02月24日 11時30分 公開
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学生諸君、半導体の設計者を目指せ!

 ファブレスに必要なのは、どのような半導体が普及するかについてのマーケティングと、その半導体を設計するためのR&D投資である。要するに、ファブレスは知恵と情報だけで勝負できる。

 そして、ファブレスには大規模な半導体工場を建設するための巨額な設備投資は必要ない。それはファウンドリーのTSMCに任せておけばよい。つまり、ファブレスは、TSMCをうまく利用することを考えればいいのだ。

 筆者から学生諸君へのメッセージを述べる。学生諸君は、就職に際して大学生と社会人の“界面”問題に直面している。筆者は、学生諸君に「迷わず、世界的な設計者を目指せ!」と言いたい。

 世界半導体市場は10年毎に2倍の割合で成長している。図18に示したように、この成長率が続けば、2050年には、2022年(6000億米ドル)の8倍の4兆8000億米ドル(約550兆円)になると筆者は予測した(関連記事:「2050年までの世界半導体市場予測 第3弾 〜30年後もスイートスポットは28nmか」)。

図18:2050年の世界半導体市場予測(修正)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータ等を基に筆者作成

 その2050年に、学生諸君は50歳代になっている。そのとき、「この道を選んでよかった」という選択をして欲しい。そして、これを読んでくれた学生諸君の中から、2050年の半導体売上高ランキング・トップ10に入るファブレスの創業者やCTOが出現することを期待している。

イノベーション創出へのヒント

 一つヒントを差し上げよう。日経新聞2022年2月2日の「経済教室」のページに、東京大学の森川博之教授が『製造業のデジタル化? 気づきと共感が価値の源泉』を寄稿している。その一節に、次の一文がある。

《経営学者のピーター・ドラッカーの言葉に「イノベーションに対する最高の賛辞は『なぜ思いつかなかったのか』である」というものがある。もちろん、隠れたニーズに気づくことは容易ではない。容易ではないと認識しながら、現場を深く見直し、…(以下略)》

 筆者は、昨年2021年12月14日に寄稿した拙著記事『半導体製造装置と材料、日本のシェアはなぜ高い? 〜「日本人特有の気質」が生み出す競争力』の中で、3次元パッケージ(3D IC)の時代を迎えて、前工程と後工程の上下関係が逆転する、パラダイム・シフトが起きていることを説明した(図19)。

図19:3D IC時代における前工程と後工程のパラダイム・シフト[クリックで拡大]

 3D ICにおいて、最初に行わなくてはならないのが「3D IC用パッケージの設計」である。ところが、筆者が知る限り、「3D IC用パッケージの設計」に特化したファブレスは存在しない。それに適した設計ツールや検査装置もないかもしれない。

 もし、これに気づいて行動を起こし、起業した人がいたら、2001年からの20年間で33.6倍の売上高に成長したMediaTekのように、2050年に世界半導体売上高ランキングで上位に入る企業に成長しているかもしれない。どうだろう、誰かやってみませんか?

謝辞

 本記事の執筆に際しては、電子デバイス界面テクノロジー研究会の運営委員長/タワーパートナーズセミコンダクタ―(株)の岡田健治様より、本研究会の歴史の資料およびパネルディスカッションのアンケート調査結果をご提供いただきました。ここに御礼申し上げます。

 また、東京大学の高木信一教授からは、本研究会の招待講演『先端ロジックCMOS のためのチャネル材料・デバイス技術』のスライドをご提供いただきました。加えて、本研究会で『インテリジェント制御による半導体製造装置のイノベーション』と題するチュートリアル講演を行った東京エレクトロン(株)の守屋剛様にもスライドをご提供いただきました。お二人のご厚意に感謝申し上げます。


(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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