今回は、「フリスの伝達公式」について解説する。
半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」が昨年(2021年)12月11日〜15日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された。同年12月17日以降は、インターネットを通じてオンデマンドで録画済みの講演ビデオを視聴可能になった。
IEDMは12日に「ショートコース」と呼ぶ技術講座をプレイベントとして実施した。その1つである「Emerging Technologies for Low Power Edge Computing (低消費エッジコンピューティングに向けた将来技術)」を共通テーマとする6件の講演の中で、「Practical Implementation of Wireless Power Transfer(ワイヤレス電力伝送の実用的な実装)」が極めて興味深かった。講演者はオランダimec Holst Centreでシニアリサーチャー、オランダEindhoven University of TechnologyでフルプロフェッサーをつとめるHubregt J. Visser氏である。
そこで本講演の概要を本コラムの第347回から、シリーズでお届けしている。なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者のご理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
前々回から、マイクロ波を使った電力伝送の基礎理論に関する講演部分を紹介している。講演全体では、5番目のパート「5. 放射型ワイヤレス電力伝送の基礎」に相当する。このパートは5つのサブパートに分かれている。前回は最初のサブパートである、「5.1 アンテナ(主に送電用アンテナ)」の講演部分を解説した。今回は2番目のサブパートである「5.2 フリスの伝達公式」の講演部分を説明しよう。
「フリスの伝達公式(Friis transmission equation、Friis transmission formula)」は、送電用アンテナが放射する電力と受電用アンテナが受け取る電力の関係を記述した公式である。デンマーク生まれの米国人電気技術者であるHarald Trap Friis(1893年2月22日生〜1976年6月15日没)が1946年5月に学術論文として発表した。
電磁波による電力伝送のモデルとして、自由空間(電磁波の散乱がない空間)に置かれた1対の送電用アンテナと受電用アンテナを考える。アンテナ間の距離(伝送距離)はrとする。
送電用アンテナが等方性アンテナ(理想的なアンテナ)のとき、自由空間に放射される電力の密度S(r)は、送電用アンテナが放射する電力PTを、半径r(伝送距離rに等しい)の球体の面積4πr2で割った分数となる。送電用アンテナが指向性を有するときには、放射電力PTに送電用アンテナの利得GTを乗じる。
受電用アンテナが受け取る電力PRは、アンテナの実効面積Aeと送電用アンテナが放射する電力の密度S(r)の積となる。ここでアンテナの実効面積Aeは、電磁波の波長λの2乗と受電用アンテナの利得GRの積を分子、4πを分母とする分数である。
従って受電用アンテナの受信電力PRは、波長の2乗λ2を球体の面積4πr2で割った値に、放射電力(GTとPTの積)と受電アンテナ利得GRを乗じたものとなる。つまり、波長λの2乗に比例し、伝送距離rの2乗に反比例する。この数式が「フリスの伝達公式」である。
「フリスの伝達公式」によると、送電用アンテナと受電用アンテナの役割を入れ替えても、伝送される電力の比率は変わらない。この「可逆性」が最も重要な点だとされる。
なお、受信電力が波長λの2乗に比例する項には注意が必要だ。この項からは、電磁波の周波数(波長の逆数)が高くなると受信電力が減少するように見える。しかし実際にはアンテナの利得は周波数によって変化する。周波数が高くなったからといって受信電力が下がるとは限らない。
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