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自作の「金融商品自動売買ツール」をGo言語で作ってみる「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(3)(8/9 ページ)

» 2022年05月31日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

え、「孤独感」のMAXは30代なの!?

 その根拠がこの、「内閣官房孤独・孤立対策担当室」が発行している、「人々のつながりに関する基礎調査(令和3年)調査結果の概要」です。

 まず、ビックリしたのが下記のデータです。

 孤独感に関しては、30代が最悪で、高齢者になるほど状況が改善されています。

 私は、先ほど私の示した友人数変化グラフの逆数が、孤独感と連動する(つまり、高齢者になるほど、孤独感が増す)と思い込んでいましたが、この仮説は完全に棄却となるようです。

 グラフを見ている限り、高齢者になるほど、孤独感は改善されていき、これは ―― ハッピーシニアエイジ ―― と名付けても良いくらいではないかと思えるほどでした。

 20〜30代と言えば、進路、恋愛、就職、出世、結婚、出産など、人生のイベントが大結集する、人生お祭り状態の時期ではないのか、とも思えます(もちろん、個人差はあると思いますが)。「孤独」が最も似合わない世代のようにも思えます。

 どうにも良く分からなかったので、長女にこのグラフを見せて、コメントしてもらいました。

「SNS=孤独増幅システム」論

長女:「『比較』による孤独ではないかな?」

江端:「比較?」

長女:「つまりね、イベントが盛り込まれているこの世代の人間は、SNSで発信することが、てんこ盛りにある訳だよね。当然、それを受信する人間も多くなり、SNSとつながる人数が増えるほどに、その数は増大する、と」

江端:「それは分かる。N(つながっている人数)の二乗のオーダーで増大する」

長女:「その膨大な数の人間たちが、20〜30代に発生するイベントを、次々と乗り切って、幸せな様子を、写真などで見せつけられる日々は、結構な地獄で、絶望的な孤独感を作り出すと思うよ

 長女は、このように、SNSが孤独を解消するどころか、逆に孤独を増大させているという、「SNS=孤独増幅システム」論を提唱しました。

 これは、なかなか説得力のある仮説でした。実際のところ、私も、SNSがうっとうしくて、Twitter、Facebookから早々に撤退しています。現在、自分からの情報発信はブログ一本に絞り、他人からの情報は、メール以外は一切受けとらない(筆者のブログその1筆者のブログその2)を徹底しています。確かに、このやりかたは、精神衛生的にも良いように感じています。

 このように考えていけば、「シニアにおける孤独対策とは、早々にSNSから撤収する」が挙げられるかもしれませんが ―― 私の場合、既に撤収済みなので、これは対策には入りません。

え、「死別」の孤独感が一番低いの!?

 さて、次のデータも、私には衝撃的でした。

 前述した通り、私は、「伴侶との死別を経て、ここに完全な孤独が完成する」と述べましたが、「死別」の孤独感が一番低いって、どういうこと? と、頭を抱えてしまいました。ここでも、江端仮説が崩壊していることを示しています。

 今回、「既婚」と「死別」の孤独感が、ほぼ同レベルというのは、ちょっと信じられません。結婚したカップルは、死別しても、それほどの孤独に至らない、ということだからです。

 まあ、夫婦は、どちらかが必ず先に死ぬ訳であり、これは避けられない運命です。それならば、このデータが示すのは「諦観」なのでしょうか?「諦め」によって孤独が解消される、という説を、私は一度も聞いたことがありません。

 さらに、「離別」より「未婚」の方が、孤独感が高いというのも、何とも分からない結果です。

 これは、一つの仮説ですが、結婚を望んでいる未婚者であれば、その未婚期間の全てを、前述のSNSからの攻撃によって、孤独を増大させられている可能性はありそうです。

 「離別」は、孤独というマイナス面もあると思いますが、逆に、うまくいかない結婚生活を解消して、自由になった実感するというプラス面もあるのかもしれません(良く分かりませんが)。その分だけ「未婚」より、孤独感が低いのかもしれませんが ―― 総じて、このグラフの結果について、私には、いまだに合理的な説明ができない状況です。

え、お金と孤独感は無関係なの!?

 そして、最後は、お金と孤独感の関係です。

 こちらの結果も、かなり戸惑いました。1500万円を越えると、孤独感が減っていますが、そこに至るまでは、全体としてはおおむね同じレベルですし、収入額と孤独感に線形の跡も見られません。

 ―― お金と孤独感には関係がないのか?

 正直、それはちょっと考えにくいです。お金というのは生活インフラですから、お金が多いほど安定した生活が担保できるということで、それは気持ちの上で「余裕」が出てくると思うのです。その「余裕」の中には、食事の質とか、遊びに行く時間とか、取れる休暇とか、その他のものがいろいろ入ってくるはずです。

 で、それらのいろいろなもの、というのは、孤独を解消するための各種のアクティビティー(地域コミュニティー、ボランティアなど)に展開される ―― ようにも思われます。

 さて、ここで思い出したのは、チャールズ・ディケンズの「クリスマスキャロル」です。貧しくとも明るいクラチット一家は幸せに、比して、金持ちのスクルージは冷酷で孤独な老人として描かれていますが ―― 私は、この小説は、『金持ちが不幸になる』ことを望む、大衆向けのフィクションストーリーだと思っています。

 私は学生のころ、苦学生をやっていたのですが、私の知っている限り、お金に余裕のある友人は、そうでない友人よりも、親切で優しかったように思います ―― もちろん例外もあるでしょうが、「優しさや親切」は、物理的、心理的余裕がある人や場所で発動されやすいことを、私は良く知っています。

 自分が明日も食べて生きていけるという保証と、自分の知識や経験が豊富な人、つまり自分自身のリソースが担保されている人は、残りのリソースを他人に与えることにためらいがないのです ―― 『金持ちが不幸になる』ことを望む方への、ご期待通りの答にはなっていなくて申し訳ありませんが

 この考えを突き進めていくと、「お金があること」と「他人に親切で優しくできること」に関連はあっても、「お金がある」ことと「自分が孤独」を感じることは、次元の違う話ということになります。

 先ほどの「未婚」と「既婚」についての孤独率は、明らかな差がありました。そして、少ない収入は、結婚を難しくしているのは事実でしょう。

 とすれば、間接的に、経済問題は孤独問題と言えるものの、その主要因は「未婚」と「既婚」である、と考えれば、上記のグラフは、一応正しい結果を示していると言えるのかもしれません。



 ここまでの「孤独感」に関する結果をまとめてみると、シニアのリタイア後の孤独問題については(特に、私(江端)に関してコメントするならば)、

(1)心理面については、それほど心配する必要はない(のかもしれない) ―― 多分、歳を取ることで、孤独に対して耐性ができる(のかもしれない) ―― 私(江端)の場合は、その状況になってみないと分かりません

(2)シニアをITオンチのまま放置するという戦略は、また、「比較による孤独問題」をこじらせないために、有効である可能性がある ―― 私(江端)の場合、今の「SNSフリー」の生活を続ければいいだけです

(3)物理面については、社会的なコネクションが完全に途絶えてしまうような孤独(というか孤立)を避けるように、自分でも必要最小限の留意をすべきである ―― 私(江端)の場合、回覧板での孤独死の発見をしてもらえるように、町内会の会費を払い続けることには意義があるかもしれない

という感じでしょうか。

 今回の孤独調査は、調べ方が甘いようにも思えますので、再度、調べてみたいと思います。

 では、今回の内容をまとめます。

【1】冒頭では、長女が17歳の時の会話を、ブログから引っ張り出して、「『好きなことだけをやって、人生を生きなさい』というようなことを語る大人は、低能である」と決めつけた上で、その理由を論述しました。また、「自分の中で自然に発生するような『好きなこと』は存在しない。それが正常」であると説き、『「やりたいこと」とか「やりたくないこと」とか気にしないで、毎日、目の前にあることに、ドタバタと対応しながら生きていくだけで、十分じゃね?』という、私(江端)の人生論を述べました。

【2】NISAの口座を開き、ようやく、最初の金融商品を購入したものの、その後、「30年前のバブル時代に購入した株」が、口座の運用を妨げているというトラブルをご紹介しました。さらに、この金融商品が順調に値下がりし、併せて、購入したビットコインは歴史的下落をしており、江端の「お金に愛されないエンジニア」の実験が、しょっぱなから負け戦でスタートした旨を報告しました。

【3】本連載の実証実験である、金融商品の投資が不調であることにも加え、このような投資のアクティビティーに関して、自分の興味がうまく”着火”しないことから、戦略の見直しを行いました。私のリアタイア後のアクティビティーを、「プログラミング」+「数学」+「お金」=「金融商品自動売買シミュレーション&システム」と位置付けて、その制作に入ることを宣言しました。また、そのシミュレーション&システムで使うこととしているプログラミング言語”Go”について簡単に説明し、”Webスクレイピング"のコーディングについても解説しました。

【4】リタイア後の老後問題を考えた時、「お金」と併せて「孤独」が大きな問題になってくると想定し、現在、日本国政府が立ち上げた内閣官房「孤独・孤立対策担当室」と、孤独によって引き起される社会問題について、簡単に説明しました。そして、「私たちの人生が、孤独に向かうように設計されている」という事実を、江端の人生の友人の数の変化をベースとして論じました。

【5】ところが、政府が取ったアンケートからは、高齢者に孤独よりも、30代の孤独の方が、相当にヤバい状況にあることが分かりました。この現象に対して、長女は、SNSが孤独を解消するどころか、逆に孤独を増大させているという、「SNS=孤独増幅システム」論を提唱しました。また、伴侶との死別による孤独感が、「独身」や「離別(離婚)」に比べて十分に小さいことや、お金と孤独感に有意か関連性が認められなかったなど、私の仮説を壊すデータが次々と表れて、私は自分の仮説を棄却せざるを得なくなりました。

 以上です。



 冒頭の話に戻りますが、今、”好きなことをやりなさい”で、ググってみたのですが、ヒット数は、50万8000件もありました。そして、”好きなことはありません”で、ググってみたら、ヒット数は4件でした。

 これはひどい、と思いました。特に、進路や将来に悩んでいるティーンエィジャたちに対して、大人たちはあまりにも冷たすぎる。

 『君のやりたいことは、君の周りの環境が、勝手に決めてくれるし、必要に応じて修正もしてくれるから、今の君のノリか、鉛筆転がしても、あみだクジ作って決めても、大丈夫。それに、一生懸命考えても、考えなくても、人生なんてものは、大して変わりゃしないよ』 ―― って、やさしく言ってあげるのが、大人の仕事だと思います。



 冒頭でも申し上げた通り、私は、私が今「好きなこと」だと感じていることが、外部要因に基づく自己洗脳が作り出した産物であるという事実を知っています。

 私が、この連載を続けられているのは、EE Times Japanとの契約があって、自分で提案したテーマだから、それをやらなければならないという「外部要因」で、最初の金融商品「三菱UFJ国際-eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」を購入しました。そして、このコラムを書くという「自己洗脳」によって、ネット証券の仕組みを、少しずつ理解して、興味も出始めています。

 私が、Go言語で、せっせとプログラムを量産しているのは、自分で自由自在に操つれるシミュレータを作っておいて、会社の業務でラクしてノルマを稼ごうという「外部要因」で、やっているだけです。そして、100回以上にも及ぶ失敗という「自己洗脳」によって、自費出版の本を作れる程度の知見を得ることができました。

 孤独について勉強を始めたのは、会社の仕事が「孤独を含む社会課題」がテーマだったからです。これも「外部要因」です。そして、孤独問題について、政府の資料を読んだり、本を読んだりして、自分なりのレポートを作成するという「自己洗脳」によって、この分野の研究の興味が高まってきています。

 これらのどこに、外部要因や自己洗脳抜きの、まざりっけのない果汁100%ジュースのような無条件な「好きなこと」があると? ―― そんなものは、どこにもありはしません

 『「好きなこと」を見つける』という、言い方も、考え方も間違っています ―― 目の前にある日常の雑多なことに、ドタバタと取り組んでいる内に、その中の何か一つが「(運がよければ)好きになっていくものかもしれない」程度のものなのです。

 最後にもう一度だけ申し上げます。

―― いい大人が、"好きなことをやりなさい"で、若者を追い詰めるのは、いい加減、止めましょう。

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