グラフェンバッテリーの開発は非常に素晴らしいが、その一方で最近、MercedesがSila Nanotechnologiesとの協業によって、GクラスのEV SUV向けにナノ強化バッテリーを開発予定であるというニュースが発表された。このバッテリーのアノード材は、グラファイトではなくシリコンナノ粒子で構成されるという。
この開発において非常に重要とされるのが、炭素ベースのアノードではなくシリコンアノードを使用するという点だ。シリコンアノードは、理論上のエネルギー密度がグラファイトよりもはるかに高いため、これまでの長年の研究から、リチウムイオン電池向けとしての利用が提案されてきた。しかし、バッテリー内部で充放電サイクルが繰り返されると、シリコンアノードが膨張してすぐに破損し、バッテリーがショートしてしまうのだ。
長年にわたるこの問題に対して、いくつかの方法が提案されてきた(そのほとんどがコーティングするという方法)が、シリコンナノ粒子を使用するという選択を取ることにより、シリコンアノードによって生じた既存の問題を回避する方法が提供されることになる。これは電極に、使用時におけるアノードの体積膨張に対応できるだけの十分な多孔質性が備えられているためだ。
このバッテリーはまだ開発中で、2024年に量産が、2025年には実用化がそれぞれ予定されているため、今のところ充電や走行距離に関するデータが十分にない。しかし、シリコンナノ粒子アノードを利用することにより、現在採用されているEV向けリチウムイオン技術と比べて、エネルギー密度が20%高いEV用バッテリーを実現できると期待されている。
バッテリーがシリコンナノ粒子によって強化され、現状からさらに成熟して性能向上を実現できれば、グラファイトベースのリチウムイオン電池と比べて、エネルギー密度を最大40%高められる見込みだ。
他の自動車が先に実用化されるとはいえ、ナノ材料強化型のEV電池とシリコンアノードの両方を大規模に開発し、市場に導入するのは世界初となりそうだ。自動車産業の競争力を考えると、Mercedesのような企業がナノ材料強化型電池に大きな信頼を寄せているならば、性能面で追い付くため、世界の自動車メーカーがナノ材料強化型EV電池に移行する道を開くことになりそうだ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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