さて、「株価は予想できないけど、リスクとリターンは計算できる」(ランダムウォーク分析)に、「組み合わせによってリスクとリターンを調整できる」(現代ポートフォリオ理論)を組み合わせると何ができるでしょうか?
ある指標(インデックス)に追従して、価格が変動するような金融商品が作れてしまうのです。これが、インデックス投資商品です。
前述した通り、インデックス投資も、前述の効率的フロンティアなどを使っているので、従来のポートフォリオとは格段に精度の異なる運用されていると推測されます。
まあ、「あの江端が書籍『ウォール街のランダム・ウォーカー』に"洗脳された"」の一言で十分なのですが、一応、理系のエンジニアとして、筋の通った説明をしますと、ざっくりこんな感じです。
本コラムの第1回「定年がうっすら見えてきたエンジニアが突き付けられた「お金がない」という現実」で述べたように、私には、これからの人生を大きくひっくり返すような大望があるわけではありません。Amazonと秋葉原で本とデジタルガジェットを購入できる程度の小金と、コラムを書き続けるだけの時間の余裕があれば、十分です。
それに、本当かうそかは知りませんが、書籍『ウォール街のランダム・ウォーカー』では、インデックス投資が最強と言っているので、それを信じているだけです ―― まあ、このような考え方が、カルト宗教への信仰と大して変わらないことは理解していますし、反論もしません。
ただ、その教義の内容が、「教祖の言葉」ではなく「数値データと数式」である、という点、そして、それを私が自力で確認できる、という点において違うとは思います。あと、誰かを恨まずに生きていけそう、という点も気に入っています ―― そこには、「全て自業自得」という潔(いさぎよ)い世界があるだけです。
それに、私のライフスタイルから考えても、これが『最適』 ―― というか、結局のところ『ラク』なのです。
とはいえ、インデックス投資とは、つまるところ「追従」ですので、ある指標(インデックス)が下落すれば、当然に、追従して下落します。
ただ、10年単位でインデックス(日本、米国、世界)を見た時、下がり続けるインデックスを見つけることは難しいです。いわば、それは、小さい子どもがずっと同じ体格を維持し続けるくらい難しいです。そういう成績の悪い債券(株式など)は、市場から消滅して、インデックスの構成要素から無くなってしまうからです。
インデックス投資が、「ほったらかし投資」といわれる所以(ゆえん)は、ここにあります。
最後に、これまで私が読み倒してきた本をご紹介したいと思います。著書名などを調べるのは面倒なので、読みたい方はタイトルから適当にググってください。
最初、上記の4カテゴリーがあることも知らずに、ファンダメンタルズ分析の本を読んで、その面倒くささに、うんざりしたのですが、その後、「ほったらし投資」から、ランダムウォーク分析の方に傾倒していきました。
昔、テクニカル分析の本も読んだはずだったのですが、今回は見つけられませんでした。「45日間の平均線が、○○の線と交差したら、買い」てなことが書いてあったような記憶があります。
テクニカル分析も、ファンダメンタルズ分析も、プログラマーでもあり、データアナリストでもある私にとって、魅力ある分析手法なのですが、「”ほったらかし”の方が勝てる」などという記述を読んだら、そのモチベーションが無くなってしまいました。とはいえ、”ほったらかし”も、それなりの戦略は必要なので、今後はそちらに注力していこうと思っています。
ちなみに、書籍「まぐれ――投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」は、爆笑カテゴリーとして購入しました。皮肉に満ちた楽しいフレーズが多く登場するので、「このフレーズ、どこかでパクってやろう」という邪(よこしま)な意図で、今回、書き込み用の本として購入しました。
ついでに、今回の(お金シリーズの)コラムに関係がありそうな本の中でも、私が特に好きな本を4冊ご紹介しておきます。
理系のエンジニアの中でも、特に通信系に従事されている方には、「フラッシュボーイズ」を強くお勧めします(映画化された方はダメです。お勧めしません)。「マネー・ボール」は、ブラッド・ピットさんの主演の映画で有名になりましたが、理系の方なら、本の方に興奮されるでしょう。
人間の直感は、データや技術に勝てない ―― という山のような現実の事例が、理系の知的好奇心を揺さぶるであろうことを、私(江端)が保証いたします。
では、今回の内容をまとめます。
【1】これまでの4回の連載で調べてきた投資手法をまとめたところ、(A)テクニカル分析、(B)のファンタメンタルズ分析、(C)アノマリー分析、(D)ランダムウォーク分析、の4つに大別できることが分かりました。これらは、全く別々の手法であるにもかかわらず、これらの知識がない初心者は、最初に始めた手法を、唯一の手法と勘違いしてしまうおそれがあることを示唆しました。
【2】上記の中でも、特に「(D)ランダムウォーク手法」について詳しく解説しました。ランダムウォーク手法は、「株価(金融商品の価格)の予想はできない」という”潔い諦め”から出発し、過去の株価の動きから算出した、平均値(リターン)と標準偏差(リスク)だけを用いて、投資方法を決める方法であり、『ウォール街のランダム・ウォーカー』の著者によれは、長期的投資としては、『最強の投資』であると主張していることを説明しました。
【3】現時点における、投資理論に関しては、大きく2つのカテゴリー、(A)行動経済学手法を用いる投資家心理、と(B)数学手法を用いる金融工学、があることを説明し、特に、(B)の一つである、現代ポートフォリオ理論について詳しく説明しました。具体的には、複数の金融商品を組み合わせる(ポートフォリオ)運用を行うことによって、リターンを上げながら、リスクを下げられるという、「標準偏差の魔法(江端命名)」が使えることを示しました。
【4】常日頃から「市場の反応は……」というニュースキャスターの語り方に、「市場ってやつは、そんなにかしこいやつなのか?」と不快を感じており、市場とは何かについて、私なりに調べてみました。その結果、市場というものは、私(江端)が考えているほどクレバーでもなく、特に熱狂時の市場は、手がつけられないほどの馬鹿になる、ということを、実例を上げて説明しました。
【5】ランダムウォーク分析と、現代ポートフォリオ理論を組み合わせてできている、インデックス投資商品が、江端の投資方法として、(デメリットも含めて)受け入れ可能で、かつ、なによりラクそうである、という検討結果を示し、この投資方法を行っていくことを決めました。
【6】江端が、この連載の開始時から読んできた本を、上記【1】のカテゴリーに分類して、簡単に紹介しました。
以上です。
相変わらず、SBI証券と楽天証券からのメールがすごいです(一方、暗号資産に関するメールは、ぐっと減っているように感じます)。「株の購入」「新規公開株の案内」「円安時の投資戦略」「電力不足に強い会社」など、よくもまあ、これだけ、いろいろなネタを撃ち込めるものだ、と感心しています。
ただ、私が調べている限り、
―― インデックス投資の商品を買って、そのまま放っておけ
という内容のメールは、今まで一度も見たことがありません。
これは、海外のファンドの多くが成功報酬によって成り立っているのに対して、日本のファンドは取引による手数料を主要な収益源としているからだ、といわれています。ならば、証券会社が、あの手この手のセールストークを使って短期間での売買を勧めるのは当然だと言えます。
つまり、ユーザーにより、ほったらかし投資(e.g. インデックス投資)の選択は、証券会社にとっては、最悪の選択になる訳です。言われるがまま、商品の乗り換えをしてくれる顧客が、「おいしい」お客さまなのです。
思い出してみると、バブル景気の頃、さまざまな投資話の電話が、職場にかかってきました。多かったのは、「マンション投資」だったような気がします。その他にも、うさんくさい話は山ほどありました(例えばこちらなど)。
私は相手がしゃべっている最中で電話を切るのに、1mmも抵抗がありませんでしたし、開口一番、『おい、お前。まずは、私の電話番号をどこから入手したか吐け』と言える人間だったので、2回目の電話は、ほとんどかかってきませんでした。
以前、この手のトラブルで、相談を受けたことがあります。
(From 質問者)
自宅にかかってくる電話だけでなく、会社にかかってくる電話にも有効 なのでしょうか? もしそうであればぜひご教授くださいませ.(最近やたらと、先物取引の勧誘電話が白昼堂々会社にかかってくるのに苦労させられています)
(From 江端)
江端のサンプル回答集を送付します。
■先物関係:「小豆相場で、父が5年前に自殺しました」
■宗教関係:「私はゾロアスター教の川崎支部長なのですが」
■英会話関係:「前回のTOEICスコアが950だったのですが、980まで上がりますか?」
■パソコン関係:「SCSIバスの規格が、フルピッチ50pin対応なら購入しますが。」
特に、私の、宗教の勧誘の撃退率は100%です(筆者のブログ)。
ちなみに、パワハラで何人も部下をつぶし、退職に追い込んでいた、最も軽蔑し、生まれて初めて私が心底から「死んでくれないかな」と思うに至ったアホ上司は、
「ほう、絶対にもうかるのか。じゃあ、あんたの金で、その投資をして、もうかった分だけを、私に回してくれよ。絶対にもうかるなら問題ないはずだよな」
という、その品性を裏切らない、最低最悪の下品な電話対応をしていました(私は、この対応自体は好きでしたが) ―― と、今、書いていて、気が付きました。
私もまた、同僚や後輩から、下品なパワハラ野郎として、心底から「死んでくれないかな」と思われているかもしれない
―― ということに。
あのアホ上司は、『自分が人気者』だと信じていたようです(証言多数あり)が、私は「自分だけは嫌われていない」と思い込めるほど、無能な研究員ではないつもりです。
まあ、この連載の内容でも、日常の振る舞い(嫌いなやつへの対応など)でも、「江端、死んでくれないかな」と思っている人が少なからずいることは、確実だと思います。
でも、あなたは、わざわざ、そんなこと、私に言いに来なくてもいいですからね ―― 私(江端)が会社から消え去る時間は、既にカウントダウンに入っているのですから。
もう少しの辛抱です。
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