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「新しい資本主義」をエンジニア視点で考えてみる「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(8)(3/9 ページ)

» 2022年10月31日 09時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

中国はKPIの“バケモノ”だった

 一方、わが国を抜いて、GDP世界第2位となった国、中国について、中国国務院資料の「第14次5ヶ年計画(2021−2025年)」の内容を読んでみたのですが ―― すごい。KPIのバケモノでした。

 まず、目標設定として「(1)科学技術・イノベーション」がトップであるのは、わが国と同じです。「科学技術が、国家の行く末を決める」というのは、歴史的に見ても明らかです。『私は文系だから関係ない』だの、『三角関数は必要な人だけが学べばいい*)』だのと、科学技術からの”逃げ”を声高らかに主張して、多くの賛同が得られるこの国(日本)は、本気でヤバいと思っています。

*)関連記事:「リカレント教育【前編】 三角関数不要論と個性の壊し方

 「(2)製造+サービス業」というのは、最近よく言われる「モノからコトへ」と同義です。中国がGAFAの後釜を狙っているのは自明ですが、日本にその気概があるかは、分かりません。

 それと「(3)国内市場の形成」ですが、これが、14億人の人口を持つ中国の強みです。これは、簡単に言えば「国内市場だけで閉じた経済圏を作ればいいじゃん」ということです。一言で言えば「外国なし(貿易なし)で、鎖国しても生きていける国」を目指すということです。一方、わが国は、海外との貿易なしとなれば、国民の生命は保証できません。

 計画の骨子はともあれ、この計画のすごいところは、KPIの内容です。

 特に「(B)のイノベーション」を見て頂きたいのですが、びっくり仰天なのが、「特許保有数/人」です。この”人”は、一般人も含む人数です。つまり、「特許出願」が、(直接、特許明細書を書かなくとも)国民の義務と見なされているのです。中国国民は、『私は文系だから関係ない』などという言い訳は、許されないのです*)

*)「三角関数は不要」などと言った矢先には、国家権力から処罰を受けるのではないか、と思えるほどです。

 そして、GDPについても、ただのGDPとは区別して「デジタル(技術/サービス)が生み出したGDP」と区別して、きちんと計算して出せ、と言っています。ただ「もうかった」だけではダメで、デジタルでもうけろ、そして、その成果を数値で明らかにしろ、と言っているのです。

 「(C)の福利厚生」についても、国家が目を光らせている様子が伺えます。託児所の数から、自分の寿命に至るまで、きっちりと数字で監視・管理されて、全く油断できない ―― うかつに自殺もできやしない ―― という感じがヒシヒシと伝わってきます。

 ともあれ、

―― なるほど、こうして、わが国は、GDPで中国に負けたのか

と深く納得しました。

 2030年には、アメリカも中国に負けるという予想があります―― 中国が、このまま、変な事件(紛争とか戦争とか)を起こさずに、技術と数字で、がっちりと国を運営し、国民を管理し続ければ、十分あり得る未来だと思います(ただ、個人的には、国家権力に、数値で尻をたたかれる国の国民になりたいか、と問われれば ―― うん、私なら、そういうノルマのない国に亡命したくなると思いますが)

 まあ、中国のことはよいとして、私は、この「新しい資本主義」に、目標に対する目指すべき数値の記載がない、ということに、大いに「引っ掛かっている」のです。

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