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「新しい資本主義」をエンジニア視点で考えてみる「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(8)(6/9 ページ)

» 2022年10月31日 09時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「古い資本主義」は何が問題だったのか

 今、この「新自由主義=小さな政府」が、大きな問題となっています。理由は、めちゃくちゃな(経済)格差が発生しているからです。格差が、本人の努力の差と正しく比例していれば、まあ問題はなかったでしょう。

 ところが、今の格差の問題は、個人の努力などという範疇(はんちゅう)を軽々と超越して、「教育機会が奪われる→就職できない→結婚できない→子どもが生まれてこない→税収がなくなる→国家財政直撃を受ける」という流れになっていて、当初の「小さい政府で、国家財政を救う」どころか、「小さい政府の元で発生した『格差』が、逆に、国家をつぶす」という危機に晒(さら)されているわけです。

 さらに、これは日本特有の現象とは思いますが、「市場の自由競争→価格競争の激化」を導き、その結果として、「デフレ→業績悪化→失業者の増大」という現象になっていることも見逃せません。

 繰り返しますが、自由主義/資本主義の世界において、「自由」や「格差」は、何も悪くはありません。

 問題は、

(1)本人の努力や能力とは別の力で動いている「格差」は悪い
(2)進学、結婚、出産、その他、人が人として当たり前のものを得られない「格差」は、さらに悪い
(3)次の世代に絶望のバトンリレーしかできない「格差」は、論外に悪い

ということです。

 では、その「悪い格差」をなくすには、どうしたら良いか ―― 「小さい政府」を、再び「大きい政府」すれば良いのでしょうか?

 実は、政府のサイズは、「大きな政府」と「小さな政府」の間を行ったり来たりしていたのです。

 小さい政府の時に、世界恐慌(1929年〜)が発生しました。「市場を市場に任せっぱなしにしておくと、世界中が不幸になり、引いては、世界大戦まで発展する」という反省と、当時はソビエト社会主義(ソ連、今のロシア)を中心に、社会主義国家が、奇跡的な経済成長を実現しました(なにしろ、あの北朝鮮が、『地上の楽園(もちろん虚偽)』と言われていたくらいです)。

 これを「ヤバい」と感じた自由主義陣営は、社会保障の充実を図るために、大きい政府にシフトしますが、行き過ぎた社会保障は財政をパンクさせることになりました。特にアメリカではベトナム戦争の戦費によって、政府の財政がガタガタになります。

 そこで一転、今度は、政府の持っている権限や国有企業を民間に開放する、新自由主義(=小さい政府)への揺り戻しが行われます。で、その結果、前述したような「悪い格差」や「デフレ」に至っている、というわけです。

 で、先程の問いかけに戻ります ―― 新しい資本主義は、「新自由主義の転換」であるのは間違いなさそうですが、それが、「大きな政府」への再転換を促すものなのか、あるいは別の何かなのかが ―― 私には分からないのです。

 そもそも、この「成長戦略」と「分配戦略」で、どのように「税金」「社会保障」「市場」「生活」を担保しているのかが、私の頭の中でつながりません。

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