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「新しい資本主義」をエンジニア視点で考えてみる「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(8)(4/9 ページ)

» 2022年10月31日 09時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「古い資本主義」=新自由主義のことらしい

 さて、「新しい資本主義」というからには、当然「古い資本主義」が存在していなければなりません。

 これについて、各種の文献を探してみましたが、なかなかドンピシャの内容を見つけられませんでした。隣町の大きな本屋に行って、「30分で分かる新しい資本主義」のような本を探してみたのですが、見つけられませんでした ―― それどころか、「新しい資本主義」が表題となっている本を見つけることすらできませんでした(「働き方改革」の時との大きな違いを感じました)。

 そもそも、資本主義というのは、「生産手段の私的所有と私的利益をベースとする経済システム」であり、人類史上最古のシステムと理解しております ―― で、この最古の資本主義の最初には、2人の人間しかいなかったのです。

 これが2人以上のグループとなることで、共同生活が発生し、そこから、税収と、その再分配(道路とか、診療所とかの公共サービスの形にして)などを行う人間(ガバナー(governor))が登場して、それが政府(Government)になります。つまるところ、政府というのは、税金を徴収して、それを分配する手配師集団のことです。

 「古い資本主義」とは、その手配師集団(政府)の規模を、できるだけ小さくして「自分のことは、(できるだけ)自分でやってね」という資本主義 ―― のようです。

 この小さな政府の元で運用される資本主義は、「新自由主義」とも呼ばれているようですが、それは、「個人が自分の能力をのびのびと使える社会」 ―― を目指していたわけではなくて、もう、「これ以上政府を大きくしたら、わが国が破産してしまうから、個人でがんばってね。これ以上、国家を当てにしないでね」というのが、主な動機だったようです。

 「大きい政府」と「小さい政府」はどっちがいいのか ―― 実は、これに正解はありません。どちらも悪くて、どちらも良いのです。

 で、近年(ここ30〜40年くらい)は、『小さな政府 = 新自由主義』が、はやりました。まあ、当時の国家財政を見れば、妥当な政策だったと、私でも思えます。

 以下は、過去の為政者が行ってきた、『小さな政府 = 新自由主義』の政策の概要です。

 若い人には信じられないかもしれませんが、以前は、たばこも、鉄道も、電話も、電気も、郵便も、国家に守られて運用されている国営企業で、『親方日の丸』と言われていたのです ―― ほぼほぼ終身雇用で、社会福祉も完璧、異動などもほとんどない、夢のような職場だったのです。

 これを解体して、普通の会社にするというのです ―― ええ、もう、それは、日本中ですごいバトル(反対運動)が展開されたものです。しかし、その支援は、国民全体には広まりませんでした。

 私の両親のような自営業や、宮仕えのサラリーマンから見れば、彼ら(国営企業の社員)は『ラクしすぎている』ように見えたからです。特に、当時の国鉄(今のJR)のストライキで、国鉄職員は多くの国民から、怒りを買いました(私の父が、テレビのニュースを見ながら、激怒していたことを覚えています)。

 客観的に見ても、1964年当時*)の国鉄(今のJR)は、「毎年1兆円の赤字を出して、2兆円ずつ借金が増え、国から7千億円を超える助成を受ける状態」で、普通の会社なら当然に破産・倒産している状態にあったのです。

*)当時の一般会計歳出は、33.1兆円。令和4年度は107.5兆円ですので、実際の金額は3.3倍ほど乗算して見てください。

 ちなみに、この新自由主義(=小さな政府)は、シカゴ大学経済学部、いわゆる「シカゴ学派」の若い学者達による、チリでの経済再建の成功例によって、図に記載したように、80年代のイギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権、日本の中曽根内閣に大きな影響を与えました。

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