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「新しい資本主義」をエンジニア視点で考えてみる「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(8)(5/9 ページ)

» 2022年10月31日 09時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「幼女戦記」が面白い

 ちょっと話は逸れます。

 最近、「幼女戦記」というアニメとコミックを読んでいるのですが、これが、非常に面白いです。

(1)市場経済を信奉する中年エリートサラリーマン(♂)が、リストラされた同僚の逆恨みで、駅でホームから突き落されて死ぬ

(2)死後の神との会話で「私の信じる市場経済では、神なんぞ無用」と言い放ち、神の逆鱗にふれる

(3)「ならば信仰に目覚めさせてやる」という神の采配によって、世界大戦の禍中に、幼女/孤児(ターニャ)として転生させられ、神から、あらん限りの不条理を与えられる

(4)主人公ターニャは、その世界で稀(まれ)に現われる魔法能力を得て、幼女のまま軍隊に入隊し、神(存在X)への復讐(ふくしゅう)を誓いながら、軍人として地獄の戦場の日々を生き延びる

 繰り返しますが、この作品、面白いです ―― 第一次、第二次世界大戦中の欧州各国*)の利害関係や、軍中央(司令部)の役割や思考方法、作戦の立案から兵站に至るまで、非常に勉強になり、何度見返しても(読み直しても)、飽きることがありません。

*)もちろん、異世界のヨーロッパですので、国家や都市の名称は、『それとなく分かるように』変更されています。

 それと、魔法といえども、万能ではなく、通常兵器としての上限スペックがちゃんと設定されている、という点も好印象です。

 で、この作品を面白くしているのが、この主人公が、『全ての事象は「市場原理」で解決できる ―― 人間も利己的(打算的)な行動を取る対象として、市場原理に組み込むことができる』 ―― と信じる、いわゆる「新自由主義(=小さい政府)=シカゴ学派」の信奉者である、ということです。

 まあ、何でもそつなくこなすことのできるエリートには、「神なんぞ、特に必要がない」と思うのは自然なことなのかもしれません。

 ところが、近年(というか、2000年頃から)、人間は合理的な経済行動を取らない、むしろ、不合理の集合体であるということが分かってきて、今「行動経済学」という学問として、さまざまな分野への展開が行われています。

 というわけで、シカゴ学派の「人間も利己的(打算的)な行動を取る対象として、市場原理に組み込むことができる」というのは、間違いであったことになります。

 まあ、人間が市場原理の中で、合理的に振る舞う存在であったのであれば、そもそも、世界恐慌(1929年〜)も、リーマンショック(2008年〜)も発生していないはずです。

 というわけで、まあ、ターニャの基本理念である「新自由主義にもとづく市場原理」主義は、間違っていたのです。

 閑話休題。

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