自己充電式EVは、既存のEVよりも数多くのメリットがある。
重要なメリットの一つとして挙げられるのが、頻繁に充電を行う必要がなくなるため、バッテリー切れの不安を解消できるという点だ。自動車に自己充電機能を搭載することで、既存のEVと比べ、走行距離の面で大きなアドバンテージを得られる。
平均的な通勤時間のユーザーであれば、自動車を再充電する必要がほぼないため、燃料費も不要になるだろう。また、研究結果から、長距離ドライブ時や、悪天候時、通勤時間が平均より長い場合であっても、消費者が支払う燃料費は、平均的な自動車の4分の1を下回るということが明らかになった。こうした点が、EVの飛躍的な高効率化を実現し、幅広い普及を推進していく要素となるだろう。
自己充電式EVは、消費者に大きなメリットを提供するだけでなく、送電網のインフラにも有益な影響をもたらすだろう。EVインフラ全体をみると、EVのエネルギー需要が送電網に大きな負担をかけることは周知の事実だ。今後のEV台数の増加に対応できるよう、世界全体の送電網をアップグレードしていくためには、この先20年間で7兆米ドルが必要になると予測されている。
太陽電池を自動車に直接搭載すれば、送電網インフラを追加で構築する必要もなく、負荷を軽減できる。これにより、持続可能性の観点から世界中に利益がもたらされると同時に、インフラ構築の必要性も低減される。
また、現在EVが使用する電気の大半は、非再生可能エネルギー源から生成されている。EV自体は空気汚染を引き起こさないが、EVが使用する電気が汚染を発生させているのだ。一方、太陽電池自動車は、「真のゼロ汚染(TrueZEV:Zero Emission Vehicle)」であると主張できる。
大半の太陽電池自動車は、手頃な価格を実現しながら、EVに対する割引制度も適用されることになる。さらに性能面では、Aptera Motorsによる0〜60マイル毎時(mph)のドラッグレーステストにおいて、太陽電池自動車がAudi「R8」やTesla「Model 3」を上回ったという例もある。
自己充電式EVは、少しずつ実現へと近づいているが、設計者やメーカーにとっては、まだ乗り越えなければならない課題が残っている。
その大きな課題の一つとして挙げられるのが、量産の実現だ。現在多くのEVメーカーが製造面で課題を抱えていることからも分かるように、製造は、EV設計の中でも極めて難しい側面だといえる。さらに自己充電式EVともなれば、これまで市場に投入されたことのない完全に新しい技術であるため、製造上の課題はさらに増幅されることになるだろう。
それに加えて重大な課題となるのが、消費者たちにこの技術を受け入れてもらえるようにすることである。Teslaが2008年に同社のEVを初めて市場に投入してから、現在われわれが目にしているようなEVの幅広い普及を実現するまでに、10年以上を要したという事実を受け止めなければならない。
自己充電式EVのような技術は、極めて前衛的で、主流になるにはまだ障壁がある。その正当性や有効性を消費者に納得してもらうことは、この技術にとって大きなハードルであることは間違いない。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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