物質・材料研究機構(NIMS)と明興双葉は、直径が15μmという超極細の「MgB2超伝導線」を開発した。超伝導モーターに用いられる超伝導線において、これまで課題といわれてきた「耐曲げひずみ性」を改善し、「変動磁場による交流損失」を大幅に低減した。
物質・材料研究機構(NIMS)と明興双葉は2022年11月、直径が15μmという超極細の「MgB2(二ホウ化マグネシウム)超伝導線」を開発したと発表した。超伝導モーターに用いられる超伝導線において、これまで課題といわれてきた「耐曲げひずみ性」を改善し、「変動磁場による交流損失」を大幅に低減した。
2050年にカーボンニュートラルを実現するため、水素社会の構築が進められている。特に、液体水素を搭載した電動航空機や超伝導発電機では、超伝導モーターなどを冷却するため、液体水素の冷熱を活用することが検討されている。ただ、小型で大出力が可能な超伝導モーターを実現するには、超伝導線の極細化など解決すべき課題もあった。
こうした中でNIMSと明興双葉は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する「エネルギー・環境新技術先導研究プログラム」において、水素冷熱を利用した超伝導関連技術の開発に取り組んできた。
今回は、液体水素温度で超伝導を示す「MgB2超伝導体」に注目した。超伝導線の製造はこれまで、粉末を金属管に詰める方法で行っていた。今回はこれに加え、ボンディングワイヤなどの製造に用いる伸線加工技術も適用した。この結果、MgB2超伝導線の超極細化に成功した。従来方法だと直径は50μmにとどまっていたが、今回は直径15μmという細線を実現した。
なお、超伝導線を構成するMgB2超伝導フィラメントの直径は約5.5μmで、交流損失の一つであるヒステリシス損失を低減することにも成功した。導線の外皮には、銅(Cu)とニッケル(Ni)の合金「モネル」を用いた。モネルとMgB2超伝導体の間にはニオブ(Nb)の拡散障壁を設けるなど、熱処理時に互いが反応しないよう工夫している。
伸線加工直後は、中央部のMgとBが混合粉末の状態である。これを650℃程度で熱処理すると、MgとBが反応してMgB2超伝導体になるという。超電導転移曲線により、臨界温度が約34Kで抵抗ゼロになることを確認した。試作したMgB2超伝導線は、直径約300μmの結び目を作れるほど柔軟性があることも分かった。大きな性能劣化もないという。
研究グループは今後、さらなる極細化や特性改善、キロメートル(km)級の長尺化などに取り組む計画。さらに、MgB2超伝導線を束ねて集合化した「大電流容量ケーブル」の開発などを進めていく。
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