北海道大学は、半導体露光用EUV光源を構成する「プラズマの複雑な流れ」を観測することに成功した。プラズマの流れを制御すれば、EUV光源の高出力化が可能になるという。
北海道大学大学院工学研究院の富田健太郎准教授らによる研究グループは2023年2月、大阪大学レーザー科学研究所の西原功修博士(大阪大学名誉教授)や米国パデュー大学の砂原淳博士、ギガフォトンの開発チームと協力し、半導体露光用EUV光源を構成する「プラズマの複雑な流れ」を観測することに初めて成功したと発表した。プラズマの流れを制御すれば、EUV光源の高出力化が可能になるという。
波長が13.5nmというEUV(Extreme Ultraviolet)光を用いた露光は、極めて微細な回路パターンを形成することができる。このため、線幅が2nm以下という先端半導体デバイスの製造などに用いられる。これらの用途で十分な光量を確保するには、極めて高出力のEUV光源(温度が30万度程度のプラズマ)が必要となる。
このためには、光源プラズマの温度に加え、密度やプラズマの流れを把握し制御することが求められる。しかし、直径は0.5mmと小さく、寿命が20ナノ秒程度と短く、密度は約0.2kg/m3と高く、移動は毎秒10km以上と高速なため、プラズマ内部の高速流動現象を計測することは、極めて難しかったという。計測手法としては、レーザートムソン散乱(LTS)法なども提案されているが、得られるトムソン散乱光は極めて微弱なため、計測は不可能とみられていた。
そこで研究グループは、6枚の反射型回折格子などからなる「差分散型回折格子分光器」を新たに作製し、EUV光源プラズマの電子温度や密度の詳細構造を計測した。計測結果により、プラズマの中心位置(プラズマ生成用レーザーの軸上)では周辺部より密度が低い、中空様構造であることが分かった。
条件を変えて計測したところ、効率を高めるのに中空構造が大きな役割を果たしている可能性が大きいことも明らかとなった。しかし、中空様構造が発現することで、EUV放射に適した高温・高密度プラズマが、なぜ比較的長い間維持されるのかは、まだ解明されていなかった。
研究グループは今回、プラズマの複雑な流れを解明するため、トムソン散乱光スペクトルのドップラーシフトに着目した。検出した散乱光の波長シフト(光のドップラーシフト)には、プラズマの流動情報が現れるためだという。
具体的には波長シフトを解析し、流れの「方向」と「大きさ」を、位置と時刻によってそれぞれ決定できるようにした。この結果、わずか約±200μmの微小領域内で、プラズマの流れの方向は180度反転し、流れの大きさがさまざまに変化するなど、微細な速度場構造の存在や、それが絶対値として可視化されていることを確認した。
さらに、プラズマの中心軸上に向かう、特徴的なプラズマの流れを観測した。この流れはプラズマ生成条件に依存しており、生成条件を変えると流れは制御できることを確認している。
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