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Cypress統合で生まれた事業部がけん引、InfineonがIoTで攻勢買収完了から3年(2/2 ページ)

» 2023年07月07日 10時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]
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ワイヤレス+セキュリティで提案、思いも寄らない用途も

 針田氏は、大きな相乗効果の一つとして、「ワイヤレスとセキュリティの技術を、一つのソリューションとして提案できるようになったこと」を挙げる。それにより、提案できる分野の裾野が広がった。InfineonとCypressは製品の重複が少なかったことから、顧客層にも重複が少なく、「それぞれの顧客に対して提案できるソリューションが増えた」と針田氏は述べる。

 「統合前は、セキュリティソリューションのターゲット市場は、支払い端末やクレジットカードなどのID認証などがメインだった。だが、無線通信ICとマイコンが製品ポートフォリオに加わったことで、スマートホームから産業機器、ウェアラブル機器まで幅広い分野に提案できるようになっている。ネットワークに接続される機器には、セキュリティが欠かせないからだ」(針田氏)

 思いも寄らない用途からの引き合いもあった。デジタルカメラで撮影した写真のデータの保護である。

 デジカメでは、写真をクラウドやスマートフォンに転送するために無線通信機能の搭載が一般的になっている。ここには以前からCypressのワイヤレス製品が採用されているのだが、それに加えてセキュリティソリューションも提案できるようになった。画像の流出や、それによるフェイク画像生成といった悪用を防ぐために、画像データを暗号化してセキュリティを強化したいというニーズがあったからだ。「統合前のInfineonであれば、なかなか開拓できないユースケースだった」と針田氏は話す。

CSSでは「日本の存在感が高い」

 CSSは、日本の存在感が高いことも特長だ。現在、Infineonの全社売上高における日本の売上高比率は10%強だが、CSS事業部のみで見ると、日本の売上高比率は20%を超える。これは、中国に次ぐ高い比率だという。ゲームやデジタルカメラ、マルチファンクションプリンタなど日本メーカーのシェアが高い分野をターゲットにしているのがその理由だ。

 針田氏は、「イノベーションをリードし、半導体に対する先々のニーズを示してくれる顧客が日本には多数いる。こうした面でも、日本市場への期待値は高い」と述べる。先述したデジカメの画像データ保護も、日本の顧客によるニーズだ。「セキュリティのユースケースの広がりを、日本から示すことができた」(同氏)

 日本法人のCSS事業部は、こうした強みを背景に、7つのアプリケーションに注力する戦略を打ち立てている。既にビジネスが確立されているゲーム、デジタルカメラ、マルチファンクションプリンタに加え、オーディオなどの民生機器、ワイヤレスBMS(バッテリーマネジメントシステム)など無線通信を使用する車載アプリケーション、FA(ファクトリーオートメーション)やロボットなどの産業機器、支払い端末などを含めたEコマースをターゲットに据える。

統合の効果はR&Dと製造にも

 針田氏によれば、最近は、セキュリティ技術を搭載したマイコンの開発など、製品レベルのR&Dでも相乗効果が発揮され始めているという。「旧Cypressのワイヤレスやマイコンも、かなりのR&D投資を行っている。2023年内にも、主力のマイコンである『XMC』や『PSoC』や、Wi-Fi ICについて新製品を発表できる見込みだ」(同氏)

 さらに、2026年秋の稼働開始を目指して建設中のドイツ・ドレスデン300mウエハー新工場では、Cypressから引き継いだ非車載マイコンの一部が生産される予定だ。「製造面にも統合の成果が表れている」(針田氏)

ドイツ・ドレスデンでは、300mmウエハー対応の新工場の建設が進んでいる ドイツ・ドレスデンでは、300mmウエハー対応の新工場の建設が進んでいる[クリックで拡大] 出所:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン

 針田氏は、「セキュリティのみの時代から、IoT向けビジネスをより強化したいという志は持っていた。だが、それを実現する手段がなかった。Cypressのコネクティビティとマイコンが統合されたことで、IoT分野への扉がより大きく開いた」と続ける。

 「相乗効果を発揮しやすい」といわれたInfineonによるCypress買収。統合から3年を経て、その狙い通り、着実に成果を積み上げている。

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