小池社長は、“Rapid and unified manufacturing service - a new semiconductor business model to lead the true wellbeing of humanity”というタイトルで講演を行った。その概要を以下に記す。
Rapidusは、全ての装置の完全枚葉化を行い、「RUMS(Rapid & Unified Manufacturing Service」と呼ぶ新しいファウンドリーサービスを提供する。
半導体のビジネスでは、PPAC-t(Power、Performance、Area、Cost、time)、つまり高性能な半導体をいかに早く市場に投入するかが重要である。
そこでRapidusは、一枚のウエハーを高速に処理し、回すことにより、大量のデータが取得する。それを基に、DFM(Design for Manufacturing)とMFD(Manufacturing for Design)をミックスしたDMCO(Design Manufacturing Co Optimization)を実践する。そして、RUMSは、完全枚葉化により、超短TAT(Turn Around Time)を実現する。
その上で、Rapidusは、カスタマーが求める半導体を、ファウンドリー側で設計し、製造し、実装(パッケージング)までを一気通貫で引き受ける。それをRapidusの拠点「IIM(Innovative Integration for Manufacturing)」で行う。
小池社長のプレゼンは素晴らしいものだった。小池社長は、恐らく500人以上いた聴衆の心をわしづかみにし、魅了したと思われる。社長が明確なビジョンを示し、パッションをもって語る。これによって、社員は鼓舞され、協力者や出資者から大きな共感を得ることができる。これは企業のトップに必要不可欠な資質であり、小池社長は超一流の能力を持っていると思った。
恐らく、imecのVan den hove氏も、小池社長の情熱あふれるプレゼンに魅了され、全幅の信頼を寄せ、期待をすることになったのだと推察する。そして、それはimecだけではない。
EE Times Japanの「モノづくり編集のこぼれ話」に、『Rapidus周りが騒がしい』が掲載された。それによれば、「2023年11月17日には、RISC-VプロセッサやAI(人工知能)チップを手掛けるTenstorrentとRapidusが、パートナーシップに関して合意したと発表しました。前日の11月16日には、フランスLetiとRapidus、東京大学が、1nm世代のプロセスを適用する半導体の設計に必要な基礎技術を共同開発すること」になったという。
また、「Rapidusが現在、工場を建設している北海道・千歳市の周辺に拠点を設立すると発表した半導体関連企業も増えてきました。EUV(極端紫外線)リソグラフィ装置の唯一のサプライヤーであるASMLも、2024年後半をメドに、千歳市に拠点を作る意向を固めたと、北海道新聞などが報じて」いるという。
Tenstorrent、フランスLeti、ASML、そして北海道に進出する半導体関連企業などは、小池社長のプレゼンに魅了され、「これはすごい、本当に2nmができるかもしれない」と思って、提携や進出を決めたものと思われる。だが、ここでいったん冷静になり、「2nmで製造する」のがどういうことか、もう一度確認してみたい。
小池社長は、講演で、RUMS、PPAC-t、DMCO、超短TAT、IIMなど、新しい造語を多数駆使したが、それは一見斬新そうにみえても、既知のものか、または曖昧な概念のものが多い。
また、小池社長は2000年にトレセンティテクノロジーズというファウンドリーを立ち上げたが、今回の新造語をよくよく考えてみると、そのときに発表していたことと、さほど変わっていないように思える。
そして、先述した通り、プレゼンが2nmの先端ロジック先端半導体を製造してくれるわけではない。従って、Rapidusの行く手には、途轍もなく高いハードルがあることには変わりがない。
以下では、半導体において、先端を行くとはどういうことかを、米IntelとTSMCを例に挙げて説明したい。かつて最先端の微細化のトップに立っていたIntelは、2016年に14nmから10nmに進むことができなかった。また、Intelに替わって、現在最先端を独走しているTSMCは、どのようにしてその微細化技術を開発しているのだろうか?(図1)
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