慶應義塾大学とブラウン大学、中国科学院大学らの共同研究チームは、フレキシブル基板上の磁性薄膜において、室温かつ低磁場の環境で「創発インダクタンス」を観測し、そのメカニズムについても解明した。
慶應義塾大学とブラウン大学、中国科学院大学らの共同研究チームは2024年1月、フレキシブル基板上の磁性薄膜において、室温かつ低磁場の環境で「創発インダクタンス」を観測し、そのメカニズムについても解明したと発表した。
創発インダクターは、ナノスケールのらせん磁気構造で生じるスピン起電力を利用したインダクターである。素子の断面積が小さくなるとインダクタンスが増大するため、インダクターの微細化につながるとみられている。また、正と負いずれの両符号も示すため、磁気センシングなどへの応用が期待されている。ただ、大きな磁場が必要となっていた。
共同研究チームは今回、ポリカーボネート有機膜基板上に形成したパーマロイ(ニッケルと鉄の合金)磁性薄膜に対し、階段状磁場を加えながらインダクタンスの振る舞いを調べた。この結果、室温かつ低磁場の環境で創発インダクタンスを観測することができた。「創発磁気インダクタンス(EML)効果」と名付けたこの現象により、数ガウス以下という小さな磁場で、インダクタンスは最大1μHという大きな変化が生じたという。
また、ゼロ磁場付近でインダクタンスの符号は、正と負に変化することが分かった。磁性薄膜の断面積を小さくすると、EML効果が向上することも確認した。さらに、階段状磁場のステップ幅を大きくすれば、より効率的に磁壁を発生させEML効果が向上することを明らかにした。
研究チームは、スピンの運動方程式を記述する「ランダウ・リフシッツ・ギルバート方程式」と統計論を組み合わせた計算方式を用いて理論的な検討を行い、計算結果と実験結果が近似していることを実証した。
今回の研究成果は、慶應義塾大学大学院理工学研究科の松島悠氏(修士課程2年)、張子京氏(博士課程3年)、畠山紘氏(修士課程1年)および、同大学理工学部の海住英生教授らと、ブラウン大学物理学科のXiao Gang教授、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(スピントロニクス研究開発センター)の船戸匠特任助教、中国科学院大学カブリ理論科学研究所の松尾衛准教授らによるものである。
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