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パワーエレクトロニクス最前線 特集

パワーデバイスは対象になる? ならない? ―― 米国の対中規制のこれまでと今後大山聡の業界スコープ(74)(2/2 ページ)

» 2024年02月16日 11時30分 公開
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意向におとなしく従っている欧州半導体メーカー

 欧州のデバイスメーカーとしては、Infineon Technologies(ドイツ)、STMicroelectronics(スイス)、NXP Semiconductors(オランダ)などがあるが、これら企業もおとなしく米国政府の意向に従っている。はっきり言ってしまえば、これら欧州半導体メーカーは規制対象となり得る最先端の半導体製品や技術を持っておらず、全く影響を受けていないのである。アナログやパワーデバイスを得意とする欧州半導体メーカーは、米国が対中規制を強化している最中に、中国市場や企業との連携をどんどん進めている。「パワーデバイスも対中規制の対象になるのでは」などとは全く考えていないだろう。もしここで、米国政府が「パワーデバイスも対中規制の対象にする」などと方針転換したらどうなるだろうか。間違いなく、ただごとでは済まない。欧州勢が米国の対中規制に激しく異を唱え、決裂する可能性も十分にあり得るだろう。

 恐らく、米国もその辺は理解しているに違いない。規制を最先端技術に限定しているから欧州企業の同意が得られているのであり、これをアナログやパワーデバイスにまで広げたら、米国自身が孤立してしまう可能性も考えられるのだ。

 半導体を中心とするエレクトロニクス産業はグローバル産業の典型であり、政治的な規制は産業経済に大きなマイナスをもたらす。経済のことを考えれば、本来は規制などすべきではない。だが、何もせずに放置すると、いわゆる情報戦争で中国の脅威にさらされる可能性がある。そのために米国としてはやむを得ず最先端に限って規制を強化している、と考えるべきだろう。

先が見通せない政治的な動き

 ここまでが筆者の考え方なのだが、先述したように筆者は政治関連の専門家ではないので、政治的な動きについては断言を差し控えたいと思っている。実際に、以下の2点については筆者としても気になっている。

①米国が中国製電池の採用に制限をかけていること。米国政府は2023年12月1日、2023年に発効した1台当たり最大7500ドル(約110万円)の電気自動車(EV)購入者への税控除措置について、中国の関連企業などが生産した電池部品、重要鉱物を使用する車種を、2024年から段階的に対象から除外する指針を発表した。2024年から電池部品、2025年からニッケルやリチウムなどの重要鉱物が適用対象になる。中国やロシアに本社を置いたり、その政府が取締役会の議決権の25%を占めたりする企業などが生産した部品や材料が使われている車が税優遇の対象外となる見通しだ。

 米国においてもクルマの電動化は推進されているが、高いシェアを持つ中国製の電池や材料を排除して、果たして電動化を推進できるのか。厳密に言えば、税の優遇をしないというだけで、禁止するわけではないが、優遇しなければ電動化の推進は進まないだろう。それとも米国は、中国に依存するくらいならクルマの電動化は無理しなくても良い、という方針なのだろうか。

②ことし2024年の米国大統領選挙で前大統領のドナルド・トランプ氏が当選する可能性があること。米国第一主義を掲げるトランプ氏は、グローバル経済には極めて無頓着であり、対中規制の方針にも一貫性を伴わない可能性がある。普通の政治家とは異なって行動パターンが読めないため、これまで米国が掲げてきた対中戦略が継承されるとは限らない。

 「パワーデバイスが対中規制の対象になるはずがない、日系企業は欧州企業のやり方を参考にして、どんどん中国にビジネスチャンスを広げるべきだ」というのが筆者の持論なのだが、政治的なことは詳しく分からないので、断言を避けさせてもらった。中途半端な意見で誠に恐縮だが、読者の皆さんに参考になれば幸いである。

連載「大山聡の業界スコープ」バックナンバー

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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