東京農工大学、九州大学および、ロンドン大学キングス・カレッジは、研究者の知見とAIを融合した設計手法を用い、磁力がこれまでの最高値に比べ2倍以上という「鉄系高温超伝導磁石」の開発に成功した。医療用MRIレベルの磁場安定性を持つことも実証した。
東京農工大学、九州大学および、ロンドン大学キングス・カレッジは2024年6月、研究者の知見とAIを融合した設計手法を用い、磁力がこれまでの最高値に比べ2倍以上という「鉄系高温超伝導磁石」の開発に成功したと発表した。医療用MRIレベルの磁場安定性を持つことも実証した。
研究グループは今回、超伝導電流が流れやすいミクロ構造の作製に必要な合成プロセスを効率よく検索するため、「研究者主導のアプローチ」と「データ駆動型の AIによるアプローチ」を、シームレスに統合したプロセス設計手法を構築した。
研究者主導のアプローチとして、名古屋大学らの研究グループが発見した結晶粒界における微視的な電流特性や、ミクロ構造の深層学習による解析と形成過程シミュレーションの知見などを設計指針に取り入れた。
AIによるアプローチでは、ベイズ最適化を基にプロセス設計用に最適化したソフトウェア「BOXVIA」を開発し、これを活用した。そして、AIが提案した合成プロセスに基づき、研究者が試料を合成して特性を評価し、データベースを更新するという、一連の流れを繰り返し行った。このようにして、それぞれに見出した合成プロセスの最適条件を用いて、2つの円盤バルク(塊)状の磁石を試作した。
実験では、小型冷凍機で試作品を転移温度(38K)以下に冷やした状態で、外部から磁化した。そうすると、永久磁石の性質を示し2テスラを上回る磁力が得られた。この値はネオジム永久磁石の市販品と比べ数倍に相当するという。米国立強磁場研究所や中国科学院のグループが報告していた鉄系高温超伝導体の磁石に比べて、2倍を超える磁力だという。さらに、3日間にわたり磁力を計測したが、減衰は極めて小さかったという。
ロンドン大学キングス・カレッジは、有限要素モデリングで解析したところ、磁力の実験値はシミュレーションの結果とほぼ一致し、磁力の起源となる超伝導電流が均一に循環していることを確認した。
さらに九州大学は電子顕微鏡で観察を行い、研究者とAIがプロセス設計した試料のミクロ構造に違いがあることを発見した。研究者がプロセス設計した試料では、数十nmの間隔を保ちながら、ぎっしりと詰まった粒界ネットワークが観測された。
これに対し、AIがプロセス設計した試料では、間隔が数十〜数百nmの広い範囲を持つ、二峰性の粒界ネットワークを確認した。この粒界ネットワークは、これまでの高温超伝導で確認されておらず、高い電流特性との関係性を解明できれば、鉄系高温超伝導磁石の磁力向上につながるとみられている。
今回の研究成果は、東京農工大学の山本明保准教授、徳田進之介氏(博士後期課程修了)、石井秋光氏(博士後期課程修了)、山中晃徳教授、九州大学の嶋田雄介准教授および、ロンドン大学キングス・カレッジのマーク・エインズリー講師らによるものである。
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