最大の課題はファウンドリー事業だろう。四半期ごとに20億米ドル以上の赤字を計上しており、年間に換算すると90億米ドル前後の赤字計上、ということになる。この業界で断トツのシェアを誇るTSMCは、2024年4〜6月期に過去最高の売上高と利益を計上しており、需要としては十分に期待できる市場である。しかも、最先端プロセスを提供できるファウンドリー企業はTSMC、Intel、Samsung Electronicsの3社しかなく、同社にもそれなりのチャンスはあるはずなのだ。しかし、プロセッサを戦略商品に持つIntelは、NVIDIAやAMDなどの競合からは委託を受けることはないだろうし、Intelの製造プロセス技術にも課題があるようなのだ。Intelはこれまでギガヘルツで作動できる高速プロセッサを製造してきた実績があり、それを支えるプロセス技術を持っていることが強みである。しかしファウンドリー事業の顧客からはIntelに対して「そんな高速作動はいらないから、値段を下げてくれ」という要求が多いという。ファウンドリー専業のTSMCやUMCなどに比べて、ユーザーにとってサービスメニューが使いにくい、などという意見もあるようだ。ファウンドリー業界におけるIntelのシェアは1%程度にとどまっており、50%以上のシェアを誇るTSMCだけでなく、12%前後のシェアを誇るSamsungにも大きく水をあけられている。
2024年1月、IntelはUMCと12nmプロセスを共同開発する、と発表した。これは価格を下げられないIntel、先端プロセスの立ち上げに苦労しているUMC、双方の思惑が一致した提携のようで、立ち上がれば双方に大きなメリットがありそうだ。
この他にも、買収したMobileyeを再上場させ、やはり買収したAlteraの再上場を検討するなどしている。買収して取り込んでみたものの想定通り機能しなかったのか、IntelのM&Aは成功事例が少ない。これは筆者の臆測にすぎないが、M&A対象企業にIntel文化を押し付け過ぎているのではないか、などと勘繰りたくもなる。Intelには非常に大きな成功体験があるので、それがIntelの改革や成長を妨げているのではないか、という気もするのである。
「成功体験が改革の邪魔をする」という現象は、日系企業の中にも多く見られる。しかしビジネスの環境が変化している限り、過去の成功事例があてになるとは限らない。こんなときは、自社のリソース、特徴、強みについて丁寧に分析することが必要だろう。自社の特徴、強みは、良くも悪くも簡単に変化するものではない。重要なのは「その活用方法」である。Intelもプロセス技術に強みがあるから、これをファウンドリー事業に活用しよう、と考えたのだろうが、それが顧客からどう見えるか、もっと考えるべきではないだろうか。
いずれにしても「あのIntelが窮地に立たされる」ということが起きるのが世の中である。本当に実力のある企業なら、窮地に立たされてから真価を発揮することだろう。Intelの今後の戦略や動向について、今後も見守りながらいろいろなことを学び取りたいものである。
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慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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