「FMS(Flash Memory Summit)」では毎年、フラッシュメモリ技術関連で多大な貢献を成した人物に「Lifetime Achievement Award(生涯功績賞)」を授与してきた。2024年の「FMS(Future Memory and Storage)」では、東芝(当時)で3次元NANDフラッシュメモリ技術「BiCS-FLASH」を開発した5人の技術者が同賞を受賞した。
フラッシュメモリとその応用に関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」では、フラッシュメモリの技術と製品、市場に関して多大な貢献を成した人物を毎年、「Lifetime Achievement Award(生涯功績賞)」を授与することで表彰してきた。
「生涯功績賞」は2011年のFMSから始まり、コロナ禍によってFMSが休止された2021年を除くと2023年まで12回の授与歴がある。日本人が初めて選ばれたのは第3回の2013年。「フラッシュメモリ」を1984年に開発した功績によって東芝(開発当時)の舛岡富士雄氏が受賞した。フラッシュメモリの歴史を知っている人間からすると、当然とも言える受賞だ。
舛岡氏によるフラッシュメモリの開発経緯はNHKテレビを始めとして経済誌や専門誌などでも取り上げられてきた。ここではあえてふれないことにする。
生涯功績賞の授賞歴で前半に相当する2011年〜2017年には、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。いずれも著名な半導体メモリ研究者、あるいはベンチャー創業者(ほとんどは元研究者)だ。企業別ではIntelとSanDiskの在籍者あるいは出身者による貢献が目立つ。
あまり知られていないのは、生涯功績賞を日本人として2番目に授与された技術者だろう。2022年の生涯功績賞は、多値記憶セル(マルチレベルセル)技術の開発に貢献した人物3人に授与された。その中の1人が日本電気(当時)に半導体技術者として勤務していた北村嘉成(きたむら・よししげ)氏だった。
北村氏は、書き込み時間(プログラム時間)によってしきい電圧が変化するMOS記憶素子を利用して1個のメモリセルに2ビットのデータを記憶するマルチレベルセルを考案した。このアイデアを日本電気は1985年8月8日に「発明の名称「不揮発性メモリー」(公開特許公報 昭62-34398)」で特許出願した。
しかし当時、日本電気(NEC)は多値記憶のアイデアに興味を示さなかった。この出願は審査請求されておらず、特許としては成立していない。もちろん、製品化の動きもなかった。フラッシュメモリの多値記憶ではプログラム時間によってしきい電圧を制御しているので、本特許(成立していればだが)に抵触する可能性が少なくない。結果としてNECは、多額の収入を得られる機会を逃したといえよう。
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