京都大学と公立千歳科学技術大学および、シドニー工科大学の研究グループは、エネルギーが小さい励起光を用い、特定の色中心から選択的に「単一光子」を発生させることに成功した。この励起方法でノイズとなる背景光子を低減できることも実証した。
京都大学と公立千歳科学技術大学および、シドニー工科大学の研究グループは2024年9月、エネルギーが小さい励起光を用い、特定の色中心から選択的に「単一光子」を発生させることに成功したと発表した。この励起方法でノイズとなる背景光子を低減できることも実証した。良質な単一光子を発生できれば、光量子コンピュータや量子暗号通信などの性能が飛躍的に向上するとみられている。
単一光子源を実現する物質として、「六方晶窒化ホウ素(hBN)」が注目されている。hBN内の原子を1つだけ取り除いた色中心(欠陥中心)と呼ばれる構造は、単色性に優れた光子を室温で安定に発生させることができるという。
色中心から光子を発生させる場合、通常は発生光子よりもエネルギーが大きい(波長が短い)光を励起光として用いることが多い。ところが、発光波長の異なる複数の色中心がほぼ同じ場所にある場合、対象となる色中心以外からの発光がノイズとなり、単一光子源として機能しなかった。
そこで今回、色中心から発生する光子のエネルギーよりも、エネルギーが小さい(波長が長い)光を励起光として用いた。hBNの原子振動(フォノン)によるエネルギーを組み合わせることにより、色中心を励起させた。この結果、エネルギーの異なる複数の色中心が同じ場所に存在しても、単一光子を発生させることが可能となった。
研究グループは実験で、励起光として波長532nmと波長637nmという2種類のレーザー光を用い、幅約200nmで高さ約20nmのhBN粒子(ナノフレーク)に集光した。そして、発生した光子の発光スペクトルを観測するとともに、単一光子性を評価した。
実験の結果から、波長532nmのレーザー光で励起すると、560nmから620nmの広い帯域に、複数のピークを持つ発光が観測された。一方、波長637nmのレーザー光で励起すると、短波長側の発光ピークが大きく抑制され、単一光子源として動作していることを確認した。エネルギーの小さな励起光を利用することで、ノイズとなる背景光子が広いエネルギー範囲で低減できることも分かった。
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