中央大学は、カーボンナノチューブ(CNT)とビスマス化合物の特性を兼ね備えた、非破壊検査向け「PTE(光熱起電力効果)センサー」を開発した。ペースト化したビスマス化合物とCNT分散液を混合することで、スクリーン印刷による薄膜形成を可能にした。
中央大学は2025年2月、カーボンナノチューブ(CNT)とビスマス化合物(Bicom)の特性を兼ね備えた、非破壊検査向け「PTE(光熱起電力効果)センサー」を開発したと発表した。ペースト化したBicomとCNT分散液を混合することで、スクリーン印刷による薄膜形成を可能にした。
非破壊検査技術として大きな役割を果たしているのが「光−電磁波撮像」である。特に、亀裂などを検出する透視に加え、材質の同定も重要な検査項目となる。こうした中で、材質同定を非破壊で行う方法として注目されているのがPTEセンサーである。
ただ、従来のPTEセンサーに用いられている材料では、高い吸収率とゼーベック効果を両立させることが難しかったという。そこで研究グループは、光吸収による発熱に優れたCNT膜と、熱電変換効率に優れたBicomを一体化したセンサーの開発に取り組んだ。
実験ではまず、原料となるBicomチップを粉末粉砕処理した。しかも、ゼーベック係数を維持しながら、導電性を発現するように導電性高分子溶媒を添加した。これにより、Bicom粉末粒子間が液状に結合したペーストを作製、独自のスクリーン印刷技術を用いてBicomペーストの薄膜形成を可能にした。この結果、CNT膜のみのPTE構造に比べ、ハイブリッドなPTEセンサーは応答強度が13倍超になることを確認した。
これまでバルク状で扱われてきたBicomをペースト状にしたことで、筆で描いたりブラシで塗ったりして、ハイブリッド構造のPTEセンサーを作製することが可能となった。作製したハイブリッド構造のPTEセンサーは、200回の折り曲げに対し、素子感度誤差率を最小5%に抑えるなど、機械的変形に対する安定性も高いことを確認した。こうした特長を生かし、立体形状のセンサーを作製すれば非破壊で3D検査などが可能となる。
開発したPTEセンサーが、非破壊検査素子として利用できる感度水準に達していることも確認した。研究グループは既に、CNT自体が感度増幅アンテナとして作用することを実証している。ハイブリッドPTEセンサーとCNTアンテナを結合し、さらなる高感度に向けた研究などにも取り組んでいく計画である。
今回の研究成果は、中央大学理工学部電気電子情報通信工学科の李恒助教や松崎勇斗大学院生(理工学研究科電気電子情報通信工学専攻・博士前期課程2年)、河野行雄教授、蓼沼怜士学部4年生(研究当時)、青嶋祐斗学部4年生(研究当時)らを中心とした研究グループによるものである。
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