光応答性と強誘電性が共存する固体有機材料 メモリ応用に期待:高密度センシング機能の実現も
東北大学は、有機分子の分子設計と固体中における分子配列を適切に制御することで、複数の機能を共存させた「固体有機材料」を信州大学と共同で開発した。この材料は、固体状態で光応答性と強誘電性が共存しており、高密度な電場−光メモリ素子への応用が期待される。
東北大学は2025年2月、有機分子の分子設計と固体中における分子配列を適切に制御することで、複数の機能を共存させた「固体有機材料」を信州大学と共同で開発したと発表した。この材料は、固体状態で光応答性と強誘電性が共存しており、高密度な電場−光メモリ素子への応用が期待される。
有機材料は、分子配列様式やその運動性によって支配され、分子間相互作用を適切に設計すれば物性の制御が可能となる。このため、機能を複合化することでメモリの高密度化や高感度のセンシング機能を実現できる可能性があるという。有機材料は有害な元素を含まないため、不揮発性メモリに向けた有機誘電体の開発も期待されている。
研究グループは今回、アルキルアミド鎖(-CONHCnH2n+1)を有するスチルベン誘導体(C14SDA)を分子設計した。同時にアルキル鎖の熱運動状態の違いを反映した可逆的な連続相移転(S1→S2→S3→L)を示す新たな化合物を開発した。
強誘電体ユニットと光反応性ユニットの両者を有すC14SDの化学構造[クリックで拡大] 出所:東北大学、信州大学
C14SDAの相転移挙動と偏光顕微鏡写真[クリックで拡大] 出所:東北大学、信州大学
C14SDAの高温固相である「S3相」では、アルキル鎖が部分的に融解し、一次元的な分子間アミド水素結合と外部電場によって双極子モーメントの分極反転が生じ、電場−分極(P-E)曲線のヒステリシスを伴う強誘電挙動を示した。C14SDAの低温固相である「S1相」では、光二量化反応を示さなかった。
これに対し、「S2相」と「S3相」は[2+2]光二量化反応を示し、固体中でシクロブタン環を形成した。また、「S3相」では、光二量化生成物と同時に、スチルベンのトランス−シス異性化反応も見られた。S3相に電場を印加して光二量化反応をさせたところ、分子の熱的な揺らぎが電場によって抑制され、-C=C-二重結合間の距離に対応する光反応収率の変化を確認できたという。
C14SDAの分子配列様式[クリックで拡大] 出所:東北大学、信州大学
C14SDAの高温固相S3相で観測された電場−分極(P-E)曲線のヒステリシス挙動(左上)と、アルキルアミド鎖の反転運動による分極反転(右上)。下図はC14SDAの固体中における光二量化生成物(右)と光異性化反応物(左)[クリックで拡大] 出所:東北大学、信州大学
今回の研究成果は、東北大学多元物質科学研究所の張雲雅大学院生(当時は大学院工学研究科)と芥川智行教授および、信州大学学術研究院理学系の武田貴志准教授らによるものである。
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