急速な成長を続ける窒化ガリウム(GaN)パワー半導体市場での展開で、ロームが新たな段階に入った。これまでは民生機器向けが中心だったが、AIサーバ用電源ユニットに初採用されたことを皮切りに、車載などのハイパワーアプリケーションでの採用拡大を狙う。
急速な成長を続ける窒化ガリウム(GaN)パワー半導体市場での展開で、ロームが新たな段階に入った。これまでACアダプターや家電などの民生向けが中心だったが、2025年2月、5.5kWのAIサーバ用電源ユニットに初採用されたことを発表。今後もデータセンターや基地局、太陽光発電インバーターそして車載などの高出力アプリケーション領域での採用拡大を狙う。今回、同社にその戦略を聞いた。
ロームは2022年3月、GaNデバイス製品の第1弾として150V耐圧GaN HEMTの量産体制確立を発表し市場に参入した。2023年には、650V耐圧のGaN HEMTの量産を開始。その後もディスクリート品のほか、「GaNデバイスの性能を最大限に引き出す」とするゲートドライバーおよび、GaN HEMTとゲートドライバーを同梱したSiP(System in Package)などを相次いで発表し、展開を加速してきた。
ただ、これまで同社が参入できていたのは民生のACアダプターや、家電および産業機器向けなどで、いずれも500W未満の比較的低出力アプリケーション用途だったという。ロームのLSI事業本部 パワーステージ商品開発部 商品設計担当 統括課長である吉持賢一氏は「民生分野で低ワットの製品から参入したが、これはGaNデバイスに対する顧客の不安に向けた、実証を含めた過程だった。もちろん民生分野向けも継続していくが、GaNによる電源の小型化、高効率化によって本質的に社会に貢献できる領域として期待しているのはデータセンターや車載、基地局などのよりハイパワーな領域だ」と説明。500Wより上で、特に1kW(かつ高速スイッチング)以上の高出力アプリケーションへとターゲットを拡大していくことを狙っているという。
これらの領域は市場の期待が高い。台湾の市場調査会社TrendForceが2024年8月に公開した市場調査では、GaNパワーデバイス市場は2023年から2030年まで年平均成長率(CAGR)49%で成長し、2023年の2億7100万米ドルから2030年には43億7600万米ドルにまで拡大すると予想。分野別では引き続き民生向けが大半を占めるものの、成長のけん引役として車載やAIサーバ電源用途などを強調していて、これらの成長によって非民生アプリケーションの割合は2023年の23%から2030年には48%に拡大する見込みとしている。
ロームは2025年2月、村田製作所グループであるMurata Power SolutionsのAIサーバ向け電源ユニットに採用されたと発表した。
具体的には電源ユニットのPFC(力率改善回路)およびLLCコンバーターに、同社の高放熱TOLLパッケージを採用した650V耐圧GaN HEMTが耐圧650Vのディスクリート製品が使用される。この電源ユニットは2025年から量産を開始する予定だ(詳細は下記リンク参照)
ロームのLSI事業本部 パワーステージ商品開発部 システム/アプリケーション課 アプリケーションGの樋口泰生氏は「従来サーバは電源サイズの規格が既に決まっていて、GaN採用による小型化という発想はあまりないだろう。一方で新たに登場してきたAIサーバは電力が上がり、電源の小型化によってスペースを確保したいという要望が強い」と説明。今回のMurata Power Solutionsにおける採用実績を追い風に、採用拡大を狙う。なお、今回の事例と並行し、他のサーバ向け電源メーカーもロームのGaNデバイスの評価を進めているといい、「今後大きく採用が伸びると考えている」と期待を見せていた。
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