多くの業界観測筋は「この日は、AppleやMicrosoftと並んでPC革命を形作ってきたIntelにとって残念な日になった」と述べている。この前例のない事業協定を批判する人からは、Intelの国有化に等しいという声も上がっている。
政府の市場介入に対しては懐疑的な見方がある一方で「Intelは救済する価値があり、政府が企業の株式の10%を所有することは国有化とはいえない」という意見もある。だが、10%の株式保有が、取締役会における政府の支配力を高めることは間違いないだろう。
肯定派の意見としては「TSMCも最大株主は台湾政府であり、政府系ファンドを通じて投資している」という声もある。また、TSMCとSamsung Foundryの成功は人件費の低さだけによるものではなく、台湾と韓国の低利融資や補助金、税額控除も大きな役割を果たしている、とも主張している。
いずれにせよ、これは半導体分野における米国の優位性を確保することを目的とした、経済政策における新たなアプローチである。そして、計り知れないリスクを伴い、市場の安定や資本の流れをゆがめる可能性がある。米国当局は性急な反発を避けるために「Micron TechnologyやTSMCといった米CHIPS法の他の受益企業に対し、連邦政府の資金提供と引き換えに株式を提供するよう圧力をかけることはない」と速やかに明言した。
これが国有化への序章であるかどうかに関わらず、はっきりしていることが1つある。この特異な事業協定は、特殊な状況下で締結されたということだ。Intelは、先端プロセスノードで半導体を製造できる製造インフラを保有する米国唯一の企業である。それゆえに同社は米国の戦略的資産となっている。
インドのベンガルールを拠点とする投資銀行家であるDivyansh Aswal氏はLinkedInの投稿で「政策立案者にとって、Intelの衰退はウォール街だけの問題ではなく、国家安全保障に関わる問題だ」と記している。
テクノロジー関連の著述家でASMLの元調達責任者であるJeffrey Cooper氏も、同様の見解を示している。「市場における勝者と敗者を見極める政府の能力については懐疑的に見ているが、Intelは救済する価値がある」(Cooper氏)
かつて半導体業界の王者だったIntelは、生き残りをかけて戦っている。過去10年間、Intelが戦略的な失策を繰り返してきた一方で、AMDはCPU市場でシェアを奪い、TSMCは半導体製造大手へと成長した。さらに重要なのは、NVIDIAがプロセッサ分野においてAIの優位性を確立したことだ。
われわれは今、かつて半導体業界のトレンドメーカーだったIntelが最後の活路を見いだそうとしている場面を目にしている。これは。単なる救済措置ではない。むしろ、異常な状況下で政府が驚くべきレベルで介入した戦略的買収であり、通常の企業再生戦略とは全く異なるものだ。
経営難に陥った業界大手が復活を遂げた例は過去にもあるが、資本と政府の支援だけでは再建には不十分だ。Intelの次の一手によって、再生が可能か、それともまた別の救済措置や介入が必要かどうかが明らかになるだろう。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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