Infineonは2025年5月に、双方向の電圧/電流制御が可能なGaN双方向スイッチ「CoolGaN bidirectional switch 650V G5」(以下、CoolGaN BDS 650V G5)を発表した。同社はこの製品を「世界初のモノリシック構造双方向GaNスイッチ」と強調している。2つの絶縁ゲートを統合したモノリシック構造で、両方向の電圧と電流をブロックできる。この製品によって従来4つのディスクリートMOSFETが必要だった双方向の電圧/電流制御を単一のデバイスで実現でき、小型化やコスト削減が可能になるとしている。
Schoiswohl氏は今回、同社の双方向スイッチがEnphaseの太陽光発電用マイクロインバーターに採用されたことを明かしたほか、AIサーバや高出力USBチャージャー、電気自動車(EV)の車載充電器(OBC)およびトラクションインバーターといった用途でも大きな利点を発揮すると強調していた。
車載向けでは、SiやSiCで培ったノウハウ、顧客アクセス、アプリケーション専門知識などを活用し、製品ポートフォリオ全体に展開する計画で車載向け認定製品を開発。「自動車産業に供給される製品として求められる『ゼロ欠陥』の実現に向けた取り組みを進めている」と説明した。
また、GaNが適する応用分野としてOBCおよび高電圧から低電圧へのDC-DC変換、トラクションインバーター、48V/12VのDC-DC変換の4つを挙げた。
OBCおよび高電圧から低電圧へのDC-DC変換についてSchoiswohl氏は「高電圧バッテリーから、基板上の48Vあるいはそれ以下の電圧への変換では、GaNが電力密度を高め車載充電器の小型化を実現すると同時に、システムコストを10%削減できる。コスト重視のEV分野では、1セントでも削減できることが重要だ」と語った。また、インバーターでも一部顧客が既にGaNの採用を検討していて、効率を4%向上できる見込みだという。「効率が向上すれば同じ走行距離を達成するためにバッテリーを小型化でき、EV全体のコストをさらに削減可能だ。現在の最大の焦点である400Vバッテリーシステム、つまりローからミッドレンジの自動車でGaNの利点が生かせると考えている」と説明した。
Schoiswohl氏は「サプライヤーとして品質と信頼性の確保が重要だが、2026年初めにはOBC向けのGaN製品をリリースする準備が整う」と説明。トラクションインバーター向けでは「システム全体の機能安全が確保されなければならず、動作温度も高くなる。GaNデバイスがトラクションインバーターの環境下でも、特定の環境下と同様に確実に動作するために、克服すべき技術的な課題があり、解決に向けて取り組んでいるところだ」とした。
なおInfineonは2025年10月15日には48V/12VのDC-DC変換などに向け、車載用電子部品の信頼性規格「AEC-Q101」に適合した同社初の100V耐圧GaNトランジスタファミリーの生産開始を発表している。
この他、GaN市場における価格圧力についてはSchoiswohl氏は「SiCと同様に、GaNでも価格圧力はかかっており、主に最終市場が民生用途の場合に顕著だ」と言及した。
その上で「しかし、例えばAIサーバ市場では信頼性、品質、最高性能、アプリケーションの専門性、高度なセキュリティ要件といったあらゆる側面において、全く異なる状況にある。現時点、そして当面の見通しにおいても、ハイエンド市場ではより強固な価格環境が維持されると考えている。市場にどれだけの差別化を提供できるかが鍵だ。さらに、特に自動車用途では、より差別化が進んでいる。われわれは300mmウエハー対応によって、民生向けでも異なるマージンレベルでコスト競争力を発揮できると考えている」と語った。
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