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室温で作動する高起電力マグネシウム蓄電池、東北大が試作非晶質の酸化物正極材料を開発

東北大学の研究グループは、物質・材料研究機構(NIMS)と共同で、マグネシウム蓄電池(RMB)に向けた非晶質の酸化物正極材料を開発した。これを用いて試作したRMBは、室温で200回以上も繰り返し充放電ができることを確認した。

» 2025年09月19日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

室温で200回以上も繰り返し充放電が可能なことを実証

 東北大学金属材料研究所の河口智也助教(現在は米国アルゴンヌ国立研究所)と市坪哲教授らの研究グループは2025年9月、物質・材料研究機構(NIMS)の万代俊彦チームリーダーと共同で、マグネシウム蓄電池(RMB)に向けた非晶質の酸化物正極材料を開発したと発表した。これを用いて試作したRMBは、室温で200回以上も繰り返し充放電ができることを確認した。

 RMBは、安全かつ安価でエネルギー密度が高い蓄電池として注目されている。資源として比較的豊富なマグネシウム(Mg)を用いるため、材料の供給という点でも安定しているという。ただ、高いエネルギー密度を実現するには、正極材料に高い起電力が得られる酸化物を用いる必要がある。ところが、加熱状態では蓄電池として作動するものの、室温のような低温状態ではMgイオンがほとんど移動せず、電池としては機能しにくいという課題があった。

 研究グループは今回、イオン交換反応によるカチオン空孔導入と微細粒子合成法を用い、室温でもMgイオンを挿入/脱離できる新たな酸化物正極材料を開発した。具体的にはイオン交換反応によって、材料中に含まれる「一価カチオン」を「二価のMgイオン」に置き換えた。これによって、Mgイオンの通り道となる隙間(カチオン空孔)を大量に導入することができた。

 この材料はカチオン空孔を「□」で記述すると、「Mg0.330.33Ti0.11Mo0.22O(MTMO)」となる。さらに、合成方法として「溶液燃焼法」と「固相反応法」を組み合わせることで、直径10nm以下の粒子を合成でき、Mgイオンが速やかに移動できるようになった。

Mg蓄電池の作動原理を示す模式図[クリックで拡大] 出所:東北大学

 充放電を繰り返し行う「サイクル特性」が改善される要因についても検証。それは「非晶質」という不規則な原子配置にあると考えた。非晶質はMgイオンを挿入しても岩塩型構造に変化しにくく、劣化を抑えられた。また、構成元素のチタン(Ti)やモリブデン(Mo)も岩塩型構造を取りにくいため、劣化を抑制できたとみている。

 研究グループは、開発したMTMO正極材料と高性能電解液(Mg[B(HFIP)42塩のトリグライム溶液)および、Mg金属負極を用いて蓄電池を試作した。このRMBを使って、動作電圧が2.5V以上の青色発光ダイオードを発光させることに成功した。また、充放電を200回以上繰り返しても最大容量の75%を維持でき、同等の電池に比べ8倍以上のサイクル寿命が得られることを実証した。

開発した正極材料を用いて試作したコインセル型蓄電池で青色発光ダイオードを点灯した様子[クリックで拡大] 出所:東北大学

 研究グループは今後、「電圧の安定化」や「クーロン効率の向上」といった課題を解決するため、関連する分野の専門家と協力しながら、早期実用化を目指すことにしている。

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