「われわれは現在、半導体チップが手元にあり、2つの道を進むことに注力している。1つ目は、技術ロードマップの実現であり、次世代チップの性能およびエネルギー回収の向上を目指すことだ。2つ目は、当社のアーリーアダプターとの対話だ。未来のコンピューティング性能とエネルギー消費の関係を断ち切るという考え方は、スタックの全ての部分でますます重要な関心事項になっている。しかも、われわれがこれをCMOSで実現したことによって、多くの可能性が開かれた」(Earley氏)
Vaireが商用化への道のりを進んでいく上で気付いた重要な点の1つが、『誰もが可逆計算用のソフトウェアを一から書こうとしない』という現実だったという。Rosini氏は「それができるのはHannah Earley氏くらいだ。根本的に、非常に異質な分野なのである」と述べる。
Earley氏は「幸いなことに、既存のソフトウェアは可逆化できる」と説明。「われわれが最初に着手したのは、既存のコードを使って可逆的な命令セットにコンパイルするようなコンパイラの構築だった。この取り組みはある程度の進展は見られたが、他者と議論を重ねる中で、人々の求める用途には不十分だと明らかになった」と語った。
Vaireは代わりに、アルゴリズムの可逆化をハードウェアに直接組み込む方針に転換した。これによって、将来の商用チップのインタフェースは完全に従来型となり、既存のコードを加速できる。
ハードウェアの可逆化がもたらすオーバーヘッドは、省エネルギー効果による利益によって十分に相殺されるとRosini氏は強調する。
VaireのチーフソリューションアーキテクトであるAlex Fleetwood氏はEE Timesに対し「製品化までにはまだ長い道のりがあるが、今後15年間にわたり現在の電力制約下でコンピューティング能力を拡張できるという可能性が潜在顧客の関心を引いている」と語った。
Fleetwood氏は「エネルギー回収という観点からは、Vaireが追求すべき最適化の道筋がいくつかある。プレーナーCMOS技術によるものもあれば、さらなる技術的ブレークスルーを必要とするものもある。現在それら全てを調査していて、顧客にとって非常に魅力的な話になっている。さまざまなアプリケーション分野の顧客との初期的な協議が進んでいて、ビジネス開発パイプラインは非常に多岐にわたる」と述べた。
エネルギー使用の削減に加え、発熱の低減も、より柔軟にIPブロックを配置できホットスポットを軽減できる新たなASICアーキテクチャの可能性を開くものだ。
短期的には、Vaireの次のステップは、自社のアイデアや設計が商業的に有効であると実証することだ。同社は自社製のチップを開発する一方で、独自チップを開発している顧客へのIPライセンス提供や、特定のアプリケーション/顧客向けにカスタム設計または共同設計する選択肢も視野に入れている。Rosini氏によれば、特に適応性の高いワークロードはAIなど高度に並列化可能なものだが、シングルコア設計も将来的には恩恵を受けるという。
「あらゆる分野、最終的には全てを手掛けたい。われわれは20年後には、量子コンピューティングであれ、古典コンピューティングであれ、全ての新規チップが可逆的になると確信している。他に道はない」(Rosini氏)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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