東京都立大学は、純度が極めて高い鉛線(超伝導体)の一部を曲げるだけで熱流を制御できる「熱ダイオード」を開発した。今回の実験では2倍を超える熱整流比を観測したが、材料や曲げ方を最適化すれば、さらに高い熱整流比が得られるとみている。
東京都立大学大学院理学研究科物理学専攻の増子優幸大学院生とPoonam Rani特任研究員、水口圭一准教授らによる研究チームは2025年12月、純度が極めて高い鉛線(超伝導体)の一部を曲げるだけで熱流を制御できる「熱ダイオード」を開発したと発表した。今回の実験では2倍を超える熱整流比を観測したが、材料や曲げ方を最適化すれば、さらに高い熱整流比が得られるとみている。
東京都立大学はこれまで、超伝導体における超伝導転移での熱伝導率変化を利用した「磁気熱スイッチング」技術の開発に取り組んできた。最近は、超伝導体を用いた熱ダイオードを開発、高純度の鉛(Pb)とアルミニウム(Al)の接合において熱整流を観測していた。ただ、熱整流特性をさらに改善していくためには、接合部における熱抵抗を抑えることが課題となっていた。
研究チームは今回、純度5N(99.999%)というPb線の一部を曲げることで、接合部のない熱ダイオードを作製した。この試料の長さ方向(熱流方向)に対して平行な磁場を印加したところ、磁場と「平行」または「垂直」となる2つの領域において、超伝導転移温度以下で熱伝導特性が大きく異なることが分かった。
実験では、4端子法を用いて順方向の熱伝導率(κ)を測定。その後、試料を逆方向に反転し再び熱伝導率を測定した。この時、ヒーターを用いて温度差を生じさせ、温度差と熱流量から熱伝導率の温度依存性を測定した。この結果、熱整流比(TRR)は、加える磁場によって最大となる温度が変化することを確認した。
さらに、曲げ率が40%(40%-bent)と60%(60%-bent)の試料を作製し、それぞれの熱伝導率を測定した。測定したデータから、40%-bentの試料はTRRの最大値が2を超えることを確認した。
今回の実験では、Pbの超伝導状態を利用したため、動作温度は極低温に限られていた。今後はさまざまな超伝導体において曲げダイオードの特性を検証していく。さらに、曲げ方の最適化を行い動作温度の上昇や熱整流特性の向上などに取り組む考えである。
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