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「TransferJet」が普及の歩進める、乱立する近距離高速無線で存在感無線通信技術 TransferJet(2/3 ページ)

» 2010年11月05日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

近傍界領域でデータ伝送

 要素技術の観点で見ると、通常の無線通信では使わない「近傍界(Near field)」と呼ぶ領域の電磁界を使うことが、TransferJet技術の最大の特徴だ*2)

 一般に、送信アンテナが生み出す電磁界は、外部へと放射しない電磁界が支配的な近傍界と、外部へと放射してゆく電磁界が支配的な「放射界(Far field)」という2つの領域に分けられる。

 近傍界は、送信アンテナが生み出した電磁界が遠くに伝わる電波へとまだ完全に変化していない領域とも言うことができる。この領域を活用することで、伝送距離が数cmという限られた範囲をデータ伝送に使う、TransferJet技術ならでは特徴を実現した。「データのやりとり可能な範囲を制限しているため、複数のマルチメディアコンテンツを用意したKIOSK(キオスク)端末で、利用者がコンテンツを選択し、ダウンロードしてもらうというというアプリケーションを比較的容易に実現できる」(ソニー TJ推進室の標準化推進担当部長を務める富樫浩氏)。(図2

図 図2 KIOSK(キオスク)端末を模したTransferJetのデモ  映像や音楽といったマルチメディアコンテンツや書籍のデータをKIOSK(キオスク)端末からダウンロードするデモ。携帯電話機やスマートフォンといったモバイル機器がKIOSK端末に触れることで、コンテンツをモバイル機器に短時間で取り込める。TransferJetロゴの位置にモバイル機器を接触させる。KDDIがCEATEC JAPAN 2010に展示した。
*2. 微小電気ダイポールが形成する近傍界はさらに、「静電界」と「誘導電磁界」に分けられる。TransferJet技術では、このうちの誘導電磁界を使っている。

要素部品の準備が整う

 TransferJet規格が完成したのが2009年後半ということもあり、これまでは対応するLSIや通信モジュール、専用アンテナといった要素部品の品ぞろえはそう多くなかった。最近になって、TransferJet通信対応のLSIの新品種や、TransferJet通信機能を載せたメモリカードを製品化するといった発表が続いた。「TransferJet技術に対応したLSIや通信モジュール、専用アンテナの品ぞろえが、十分に増えてきた」(ソニー TJ推進室の標準化推進担当部長を務める富樫浩氏)という。

 例えば2010年9月には、ソニーが同社にとって第2世代となるTransferJet通信用LSI「CXD3270GG」を発表した(図3)。対応するインターフェイスは、USB 2.0または、PCI Expressである。消費電力を従来に比べて大幅に削減しつつ、集積度を高めたことが特徴である。いずれも、電池駆動で、実装スペースの限られたモバイル機器には重要な項目だ。

図 図3 ソニーが開発した第2世代のTransferJet通信対応LSI  RFトランシーバーやプロセッサを中心に数多くの機能を搭載しており、外付け部品は少ない。第2世代品は、消費電力を削減したことや、PCI ExpressやUSB 2.0のインターフェイス回路を集積したことなどが特徴である。

 消費電力については、従来品ではデータ送信時に1Wを超えていた。これを、数100mW程度に削減した。また、RFトランシーバ回路やプロセッサに加えて、インターフェイス回路を新たに集積した。従来品を使って、USB 2.0または、PCI Expressというインターフェイスを使うには、ブリッジICを外付けする必要があった。このほか、データ伝送速度を高めたことも特徴である。従来品では100数十Mビット/秒だった実効速度を、第2世代では最大値(375Mビット/秒)により近い、300Mビット/秒程度に引き上げた。

 TransferJetコンソーシアムのプロモータ企業である東芝は、エレクトロニクスの総合展示会「CEATEC JAPAN 2010」(2010年10月5日〜9日に幕張メッセで開催)で、TransferJet通信機能を載せたSDメモリカード(図4)や、TransferJet通信対応LSIの製品化を計画していることを明らかにした。SDメモリカードは、2010年第3四半期〜第4四半期に発売する。TransferJet通信対応LSIについては、外販することは決まっているものの、提供開始時期は明らかにしていない。

図 図4 東芝のTransferJet通信対応のSDメモリカード  フラッシュメモリや、TransferJet通信用回路や専用アンテナ(カプラ)で構成している。例えば、TransferJet通信対応のSDメモリカードをデジタルカメラに差し込むだけで、SDメモリカードを介してデータをやりとりできる。このとき、デジタルカメラをTransferJet通信に対応させるために、メモリ挿入部の筐体(きょうたい)や、ファームウエアの変更が必要である。TransferJet通信対応のSDメモリカードは、2010年第3四半期〜第4四半期に発売する予定。ソニーは、TransferJet通信に対応したメモリースティックを市販している。

 このほか、CEATEC JAPAN 2010では、TransferJet通信用モジュールや専用アンテナ(誘導電界カプラー)を複数社が出展していた。KDDIやソニー、東芝が自社ブースの一角でTransferJet技術のデモを見せていた昨年とは対照的に、CEATEC JAPAN 2010ではTransferJetコンソーシアムが独立したブースを構え、合計20社が参加した。ブースにずらりと並んだ要素部品や、実際の利用シーンを想定したデモが印象的だった。

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