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第6回 水晶振動子を使うとき知っておくべきこと水晶デバイス基礎講座(2/2 ページ)

» 2011年05月16日 09時20分 公開
[宮澤輝久,セイコーエプソン]
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負荷容量で等価直列抵抗も変化

 前述のように水晶振動子の等価直列抵抗は、電気的な等価回路のパラメータの中で重要な要素です。負荷容量を考慮すると、等価直列抵抗(負荷時等価直列抵抗(RL)と呼ぶ)は(2)式のように増加しますので、配慮が必要です。

 R1は、負荷容量がないときの等価直列抵抗、すなわちクリスタルインピーダンスです。(2)式から分かるように、水晶振動子の等価並列容量(C0)の設計値が同じであれば、負荷容量が小さいほど、等価抵抗値は上昇し、発振しにくくなります。ですので、負荷容量はあまり小さくしすぎないことが肝要です。

 近年、携帯電話機に代表されるモバイル機器を中心に、水晶振動子を小型化する要望が高まっています。しかし、前述のように、同一の発振周波数で比べると、水晶振動子に使う水晶チップの寸法が小さくなればなるほど、図5の等価回路のR1(CI値)と、L1が大きくなってしまいます。結果、水晶振動子は発振しにくくなるので、発振回路を設計するときには、配慮が必要です。

設計者の側が指定する3つの数値

 実際に、水晶振動子を利用する設計者の側で決める必要があるのは、発振周波数(f)、負荷容量(CL)、発振周波数の許容偏差(Δf)です。

 上記の3つの数値を基に、水晶メーカーでは、負荷容量(CL)に合わせて、振動子を発振させながら、発振周波数や許容偏差を合わせ込みます。水晶振動子の発振周波数の特性を正確に把握するには、発振させた状態にする必要があるからです。

 例えば、「f=12MHz、CL=8pF、Δf=±20ppm」という仕様を設計者がオーダーしたとしましょう。水晶メーカーは、この仕様に合わせ込んだ水晶振動子のサンプルを提供します。このサンプルの発振周波数の微調整が必要なら、設計者の側で負荷容量を、例えば7.5pFというように調整します。

 水晶振動子の発振回路がマイコンに内蔵されている場合、設計者は発振回路のパラメータをほとんどいじれません。マイコンに外付けされたコンデンサを調整するか、または水晶振動子そのものの特性を再調整する必要があります。

回路で考慮すべき振動子の癖

 水晶振動子を利用するときに考慮すべきなのは、電気的な特性だけではありません。水晶振動子は機械的に振動していますので、水晶振動子を励振させるレベル(励振レベル)も重要な指標です。

 励振レベルを上げ過ぎると、振動の振幅が増加し、機械的な振動のひずみが生じたり、内部摩擦によるわずかな温度上昇によって発振周波数が変化したり、電気的等価回路のパラメータが変動したり、発振周波数のひずみなどが発生するなどしてしまいます。最終的には、水晶振動子が破壊してしまう恐れがあります。

 従って、水晶メーカーがカタログなどで保証している励振レベル以下で使用することが肝要です。一般に、水晶振動子の励振レベル(P)は(3)式で表現します。

 図2は、励振レベルと発振周波数の変化量の関係を示しており、「DLD(Drive Level Dependence)特性」と呼びます。図7から分かるように、水晶振動子に内蔵した水晶チップが小さくなればなるほど、発振周波数は励振レベルの影響を受けます(Δf/fが大きくなる)。また、発振周波数が高いほど励振レベルの影響を受けやすくなり、励振レベルの増大に対する発振周波数の変動ポイントが早くなります。

図2 図2 励振レベルと発振周波数の変化量の関係 「DLD(Drive Level Dependence)特性」と呼びます。水晶振動子に内蔵した水晶チップが小さくなればなるほど、発振周波数は励振レベルの影響を受けます

 以上のことから、水晶振動子の寸法が小さいほど、または発振周波数が高いほど、励振レベルを抑える必要があることが分かります。寸法が3.2mm×2.5mm以下の水晶振動子の場合、周波数の変化幅を考慮すると、励振レベルを100μW以下に抑えることが無難です。

発振周波数の変化を積極的に利用

 ATカット型水晶振動子の発振周波数は、水晶チップの厚みに依存することを、第4回で説明しました。このことは、水晶チップの厚みの変化に相当する質量の変化によって、発振周波数が変動することを意味しています。例えば、空気中の湿気やゴミなどの微量な付着物が水晶チップに加わった場合、発振周波数は変化します。質量の変化によって発振周波数が変わることを積極的に利用したのが、ガスセンサーや真空蒸着装置の膜圧モニターです。

図3 図3 水晶振動子の経年変化特性(エージング特性) 水晶振動子は、高気密で封止させており、外部からの影響はありません。しかし、内部の材料からの微量なアウトガスの発生で、発振周波数が変動することがあります。ラインの違いは、付着した質量の差によって生まれたものです。

 水晶振動子は、高気密で封止させており、外部からの影響はありません。しかし、内部の材料からの微量なアウトガスの発生で、図3のように発振周波数が変動することがあります。図8を「エージング特性」と呼びます。水晶メーカーはカタログなどで、エージング特性を、「25℃の自然放置で、年間±数ppm以内」というように規定します。

 水晶振動子の発振回路を設計する場合、励振レベルの制限や、エージング特性に考慮することが大切です。

 次回以降、水晶振動子の発振回路について詳しく解説しましょう。負荷容量を考慮したときの水晶振動子の発振周波数や、等価直列抵抗への影響などを考察します。また、水晶振動子と発振回路の評価方法も紹介します。


参考文献

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「小型水晶振動子利用ガイド」、1994年12月

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「水晶デバイスの解説と応用(第5版)」、2007年3月

吉村和昭、倉持内武、安居院猛、「図解入門 よくわかる最新 電波と周波数の基本と仕組 み」、秀和システム、2004年12月

宮澤輝久ほか、「Design Wave Magazine2007年2月号 論理回路の要 水晶発振回路の設計&実装」、CQ出版社

滝貞雄、「人工水晶とその電気的応用」、日刊工業新聞社、1974年5月

品田敏雄、「水晶発振子の理論と実際」、オーム社、1955年

岡野庄太郎、「水晶周波数制御デバイス」、新技術開発センター、1995年12月

宮澤輝久、菊池尊行、八鍬恵美、「電子材料2010年7月号 水晶MEMSジャイロセンサ」、工業調査会

宮澤輝久、「エレクトロニクス実装技術2009年1月号 弾性表面波技術を応用したGHz帯高精度SAW共振子及びSAW発振器」、技術調査会

Profile

宮澤輝久(みやざわ てるひさ)氏

セイコーエプソン 経営戦略本部 経営企画管理部に所属。1991年にセイコーエプソンに入社。水晶デバイス事業部にて、水晶発振器の設計・開発に携わる。その後、1999年から2004年まで、同社欧州(ドイツ)現地法人に赴任し、マーケティングとビジネス開拓に従事した。帰国後、水晶デバイス事業全般の商品戦略と商品企画業務に携わる。2005年、セイコーエプソンの水晶デバイス事業部と東洋通信機が事業統合したエプソントヨコムに異動し、商品戦略部立案及び新規ビジネス開拓を推進した。2011年4月よりセイコーエプソンに出向し、将来の事業に向けた調査活動や、事業部の事業支援に携わっている。


「水晶デバイスは、振動工学や伝熱工学、流体力学、材料力学、機械要素などの機械工学や、電子回路設計などの電気工学、雑音を抑制するための電磁気学、エッチングなどの金属加工、さらに化学など、あらゆる分野の技術が組み合わされて、製品化されるものです。水晶デバイスに携わることは、世の中のあらゆる技術に触れる機会が多く、驚きと発見、勉強の毎日です」(宮澤氏)。



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