三菱電機の車載向け低音スピーカーは、チタンに匹敵するほど固い材質の振動板「NCV」を、強力な磁気回路で動かす。最低共振周波数よりも低い周波数領域を積極的に活用した、新発想のスピーカーだ。
三菱電機は、空気容量がわずか10リットルの小容量スピーカーボックスを使いつつ、20Hzの低音を再生可能な車載用スピーカー「SW-G50」を開発し、「第42回東京モーターショー2011」(一般公開日12月3〜11日、東京ビッグサイト)に出品した。
低周波数のオーディオを高音質で再生するには大型のスピーカーボックスが必要という、これまでの“常識”を覆した製品だ。カーボンナノチューブを配合した振動板と新発想の駆動手法を組み合わせることで実現した。
従来、数十Hzという低音に対応するスピーカーの開発方針は、いかに「最低共振周波数(f0)」を下げるかを追求したものだった。
最低共振周波数は、スピーカーが再生可能な周波数の下限を決める指標である。これは、スピーカーボックスを大容量化したり、振動板を重くするといった対策によって下げることが可能だ。ただ、自動車という用途を考慮した場合、スピーカーを組み込むスペースや、載せられるスピーカの重量には限りがある。従って、車載スピーカーの分野では、低音対応を進める上で物理原則に縛られた限界が訪れていたという。
いかにこれまでの限界を打ち壊すか――。三菱電機が注目したのが、スピーカーの周波数特性において、最低共振周波数よりも低い周波数領域である。確かに、この周波数領域をうまく使えればより低音を再生できるものの、スピーカーの振動板を動かしたくても動かせないという、「使えない周波数領域」だった。そこで同社は、磁束密度が1.7テスラに達する強力な磁気回路を開発し、振動板をいわば無理やり動かすという手法を採った。「最低共振周波数よりも低い領域を積極的に活用した車載用スピーカーは、知る限り業界初」(同社)。
ただ、問題もある。一般的な振動板を使い、最低共振周波数よりも低い周波数領域を出力しようとすると、まともな音を再生できない状態になってしまう。振動板を無理に動かすためにひずんでしまうからだ。この問題を解決する決め手となったのが、カーボンナノチューブと樹脂素材を組み合わせた振動板「NCV」である。チタンに匹敵するほど固いため、強力な磁気回路で動かしてもひずむことなく、高い音質の音で再生することが可能だという。「樹脂素材でありながら、チタンに匹敵する5000m/秒以上という高い伝搬速度と、紙と同等の適度な内部損失を兼ね備えた振動板だ」(同社)。
このような工夫で、空気容量が10リットルのスピーカーボックスでも20Hz〜4kHzの周波数範囲で、高音質のオーディオを再生できるスピーカーを実現した。「これまでは、20Hzの低音を出すには少なくとも20リットルの空気容量が必要だった」(同社)。
瞬間最大入力は300W、定格入力は150W、出力音圧レベルは90dB/W/m、インピーダンスは4Ωである。2011年12月1日に受注を開始する。希望小売価格は8万4000円である。
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