わずか12個の磁性原子に1ビットの情報を記録する技術を、IBMの研究グループが開発した。現在のハードディスク装置や半導体メモリチップに比べて、100倍以上もの高い記憶密度を実現できるという。
IBMの基礎研究所であるIBM Researchの研究グループは、わずか12個の磁性原子に1ビットの情報を記録できる技術を開発した。現在のハードディスク装置(HDD)では1ビットの記録に約100万個の原子を必要とする計算になり、同研究グループの成果はその所要数を飛躍的に削減したことになる。2012年1月12日(米国時間)にIBMが発表した。
半導体の世界ではこれまで、シリコン材料を利用したトランジスタの微細化を進めることで、コストの削減や集積密度の向上、効率の改善などを達成してきた。しかしそのような微細化は物理的な限界が見え始めており、従来のアプローチで微細化を継続していくことはやがて不可能になるだろう。コンピューティング技術の革新を今まで通りのスピードで進めていくには、従来とは別のアプローチが求められる。
そこでIBM Researchの研究チームは、データ保存の最小単位である原子に着目し、新たなアプローチを適用した磁気メモリを開発した(図1)。既存のハードディスク装置や半導体メモリチップに比べて、100倍以上もの高い記憶密度を実現できるという。将来的には、原子を操作してナノ構造体を構築し、それにより「反強磁性(antiferromagnetism)」と呼ばれる特殊な磁気形態を適用することで、単位スペース当たり現在の100倍の情報を記録できるようになると考えられている。
IBM Researchのアルマデン研究所(Almaden Research Center)で原子記録部門の主任研究員を務めるAndreas Heinrich氏は、「半導体業界は今後も、半導体技術の微細化に取り組み続けるだろう。しかし部品の小型化を進めていくと、微細化は究極的には原子のレベルにたどり着く。われわれは今回、微細化という従来のアプローチとは正反対のアプローチを採った」と語る。すなわち、微細化のように原子レベルをゴールとするのではなく、逆に原子レベルからスタートして、1ビットのデータを記録するために原子が幾つ必要かを探るというアプローチである。
IBM Researchの研究グループは、走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)を使って鉄の原子を操作して移動させ、12個を並べて反強磁性的に結合された状態に配置した(参考記事:原子を1個ずつ操作することが可能に、IBM社が原子メモリに向けて開発)。この12個の原子のグループが1ビットのメモリ素子として機能し、低温下で数時間にわたってデータを保持することに成功した。その原子のグループが、隣接する原子のグループの状態に干渉しないように、グループ内の各原子の磁気特性が適切な向きに並ぶように配置したという。これにより、磁気記録の密度を飛躍的に高めることに成功した。
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