2011年1月に三洋半導体を傘下に収めたオン・セミコンダクターが、LEDドライバIC事業の国内展開を強化している。2011年時点で出荷数が世界最大規模となったLED電球をはじめとする国内のLED照明器具向けの需要獲得を目指す構えだ。
ON Semiconductor(オン・セミコンダクター)は、アナログICや電源IC、個別部品タイプのIC(ディスクリートIC)の有力ベンダーとして知られている。同社は2011年1月に、三洋電機の半導体部門である三洋半導体の買収を完了した(関連記事)。この買収により、ON SemiconductorのディスクリートIC市場における世界シェアは、4.4%から6.1%に増えた(2010年時点)。同市場の売上高ランキングで見れば、これまでの10位から、Infineon Technologies、東芝、STMicroelectronicsに次ぐ4位に上がったことになる。また、半導体メーカーの全市場の年間売上高ランキングでも19位に入っている。
三洋半導体を傘下に収めた第1の理由は、国内市場での存在感とシェアを高めるためだ。東京と大阪に、民生用機器、LED照明、車載機器、電源などの各種アプリケーションのサポートを行う「ソリューション・エンジニアリング・センター」を設置するなど、国内市場に向けた取り組みを着実に進めている。
この国内市場において、ON Semiconductorが特に展開を強化しているのが、LED照明や液晶ディスプレイ(LCD)のバックライトに用いるLEDドライバICである。同社のLED照明事業部でマーケティング・ディレクターを務めるLaurent Jenck氏は、「2011年時点で、LED電球の世界最大の市場になっているのが日本だ。東日本大震災以降、計画停電や省エネへの取り組みが進んだこともあって、2011年の1年間で約3100万個が出荷された。2012年には約5100万個を出荷する勢いだ。また、LED照明器具全体の国内市場規模も、2012年は前年比70%以上の成長が見込まれている」と強調する。
また、世界全体の市場動向についても、LED電球の価格が10米ドルを切る2014年頃に、LED照明の浸透が始まるとみている。「現在、照明器具全体におけるLED照明の普及率は5%未満にすぎない。2010年時点での照明器具向けLEDドライバICの市場規模は1億3000万米ドルだが、2014年には7億3500万米ドルまで拡大する。この間の年平均成長率は54%に達する」(Jenck氏)という。
同社は、照明器具向けLEDドライバICについて、LED電球をはじめとする1〜12Wの低出力用、ダウンライトやスポットライト、装飾照明など8〜60Wの中出力用、街灯や建築照明といった40〜300Wの高出力用、全ての領域で製品を展開している。これらの製品の特徴は、「世界シェアトップのACアダプタ向け電源ICの開発で培った高い力率と効率により、米国の省電力規格Energy Starに準拠可能な使用を満たしている」(同氏)ことだ。例えば、PAR30タイプLEDランプ向けの「NCL30000」は、40W以下の出力に対応し、力率は0.96以上、効率は83%以上である。また、建築照明向けの「NCL30051」は、250W以下の出力に対応し、力率は0.9以上、効率は90%以上を達成している。さらにこれらの品種は、LEDを駆動する以外の機能も搭載している。NCL30000は、白熱電球の調光に利用されてきたトライアック調光器に対応。一方、NCL30051は、力率改善回路や外付けMOSFETを駆動するゲートドライバなどを集積した。
市場拡大に必要とされているLED照明の低価格化に対応する製品も用意した。直管形蛍光灯を代替するLED蛍光灯向けの「NSIC2050」は、トランスが不要な非絶縁タイプなので「低コスト化が容易」(Jenck氏)である。また、同じ明るさの直管形蛍光灯の駆動回路とNSIC2050を使った駆動回路を比べると、部品点数は1/7の6個に減り、力率は約1.7倍の0.92に向上したという。さらにJenck氏は、「三洋半導体は、LED電球の低コスト化に貢献する非絶縁タイプのLEDドライバICを展開している。これらを加えることで、ON SemiconductorのLEDドライバICはさらに充実したラインアップになった」と語る。
加えて、ON Semiconductorが照明器具向けLEDドライバICを展開する上での強みとしているのが、ダイオードやMOSFETなどの個別部品、各種センサー、通信ICといった、次世代照明器具に必要なICも併せて提供できることだ。センサー関連であれば、温度センサーや照度センサーに加えて、受動赤外線センサーの制御ICなどがある。通信ICについては、電力線通信や、欧州のオフィスビルの照明制御に用いられているKNXに対応するものを用意。次世代照明器具で重要な役割を果たすとみられている無線通信についても「対応を検討している」(Jenck氏)。
ON SemiconductorのLEDドライバIC事業は、照明器具向けの他に、自動車向けやLCDバックライト向けでも展開を強化している。例えば、自動車向けであれば、Audiの高級セダン「Audi A8」のLEDヘッドライトに採用された。LCDバックライトについては、中小型の液晶ディスプレイを搭載するモバイル機器向けと、大型の液晶ディスプレイを使う液晶テレビ向け、それぞれの製品を供給している。またモバイル機器向けでは、カメラのフラッシュとして利用されているLEDのドライバICもある。Jenck氏は、「モバイル機器向けのLEDドライバICは、三洋半導体を買収するまで当社にはなかった製品だ」と説明する。
2011年のON Semiconductorの売上高は34億米ドル。このうちLEDドライバIC事業は、約5000万米ドルを占めるにすぎない。内訳は、照明器具向けが2000万米ドル、自動車向けが1000万米ドル、モバイル機器向けが1600万米ドル、テレビのLCDバックライト向けが約400万米ドルとなっている。Jenck氏は、「LEDドライバIC市場は、今後も年平均で25%成長すると予測されている。当社のLEDドライバIC事業は、この2倍となる50%の成長率を目指す」と述べている。
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