一方のNICTは2011年12月〜2012年3月に、スマートユーティリティネットワークを活用した「放射線量監視・警戒システム」の実証実験を福島県川内村で実施した。
このシステムでは、複数地点の放射能線量計で測定したデータを収集し、遠隔地に置いたサーバでデータをリアルタイムに監視するもの。放射能線量計には、データ収集制御局(親機)に無線で接続する端末が取り付けられており、広い範囲を効率的にカバーできるようになっている。無線端末に電源を投入した後に、所定のカバー範囲に応じて、マルチホップ通信によってデータ収集経路を自動的に構築する仕組みである。データを集めた収集制御局は、コグニティブ無線ルータを介してインターネット上のサーバにデータを送る。
続く2012年3月には、IEEE 802.15.4g/eのドラフト最終版に準拠した920MHz帯無線端末を、業界で初めて開発したと発表した。マルチホップ通信を採用したスマートユーティリティネットワークを構成する端末として使える。同研究所が開発した同様の無線端末に比べて、大幅な小型化と低消費電力化を進めたことも特徴である。具体的には、外形寸法は84×70×20mm(アンテナ部を除く)と従来比1/3に抑えた。これまでは無線端末のMAC層処理をFPGAで実現していたが、新たに物理層とMAC層を集積化したASICを開発することで小型化を実現した。また、平均の稼働時間割合が、連続動作の1/100以下になるような高度な間欠動作を実装することで、消費電力は従来比で1/10に削減した。
変調方式はFiltered 2FSK(Frequency Shift Keying)、データ伝送速度は50kビット/秒、または100k/秒、200kビット/秒である。ルーティング方式は、ツリー状構造に基づく各無線端末から収集制御局(親機)への単方向ルーティングを採用しており、通信距離の目安は伝搬環境やトラフィックに依存するものの、1ホップで150m、数ホップで1k〜2kmだという。1台の親機に対して、数十台〜100台程度の端末を接続することを想定している。
開発した無線端末は、日本国内で実際に運用するための「技術基準適合証明(技適)」も920MHz帯で取得済みである。要望する企業に対して、NICTの技術移転部門を介して技術提供することも可能である。
2012年1月に誕生した、IEEE 802.15.4gを推進する業界団体「Wi-SUN Alliance」――。その中で、強い存在感を示しているのが情報通信研究機構(NICT)だ。NICTは、情報通信分野の研究開発や事業振興業務を幅広く実施している総務省所管の独立行政法人である。
通常は、産学連携を想定した要素技術の研究開発が主業務だが、今回は、IEEE 802.15.4gの国際標準化に積極的に携わり、さらに国際標準化された技術を普及させるための枠組み作りまで踏み込んだ。Wi-SUN Allianceにはプロモーターとして参画している他、同研究機構のワイヤレスネットワーク研究所スマートワイヤレス研究室の室長を務める原田博司氏が、Wi-SUN AllianceのCo-Chairに就任している。「我々の取り組みは、いわば『起爆剤』作り。ぜひ、Wi-SUNという枠組みを活用し、日本国内のさまざまな企業に国際競争力のある機器開発を進めてほしい」(原田氏)という。
NICTのワイヤレスネットワーク研究所ではここ数年、次世代の社会インフラ作りを目指した無線通信技術の研究成果を相次いで発表している。
コグニティブ無線、スマートユーティリティネットワーク用無線、ホワイトスペース――。キーワードだけを見ると無関係に思えるが、「安心・安全を目指した『コグニティブワイヤレスクラウド』という社会インフラ作りのために、全てつながっている技術だ」(原田氏)という。
社会環境をモニタリングするために散りばめられたメーターやセンサーから、データを効率的に収集するスマートユーティリティネットワーク。このネットワークからインターネット上の管理サーバに安定的にデータを送るコグニティブ無線。そして、周波数の利用効率を高めるホワイトスペース技術。これらをうまく融合させることで、堅牢(けんろう)かつ効率的な無線インフラを形作ることを目指しているのだという。
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