さて、冒頭で、幅1mの学習机に気体を横に並べてみると、酸素は21cmになるが、二酸化炭素はわずか0.4mmしかならない、というお話をしました。でも、これは変なのです。
まず、地球上に酸素が生まれた経緯は
(Step.1)太古の地球には酸素は存在していなかった(二酸化炭素が大気の81%を占めていた)
(Step.2)ところが、28億年程前に、光合成を行うバクテリアが登場して、せっせと酸素を作り始めた
というものでした。
ですが、光合成の原理は、「水+二酸化炭素(+日光)→でんぷん(+水)(6H2O+6CO2→C2H2O2+6O2+6H2O)」となりますので、植物は、1分子の二酸化炭素から、1分子の酸素しか生成できません。ですから40億年前に「酸素:二酸化炭素=0cm:81cm」で始まった大気の構成が、光合成によって「酸素:二酸化炭素=21cm:0.4mm」という比率になることはあり得ないはずなのです。
そこで、実際に、植物が吸収するCO2の量の計算してみました。「樹木の吸収するCO2の量を求めよう」を読みながら、わが家の玄関に植えられている観葉樹木を使って計算したのです。
この木の幹の直径は10cmですので、葉の面積の合計はざっくり10m2になります。しかし、この木では年間15.4kgのCO2しか吸収できません。つまり、1缶の灯油から作られるCO2を吸収するのに、3年もの時間が必要となります。
―― 結構、ショボい
室内の観葉植物が、何十人ものオフィスの人間の呼吸の二酸化炭素を吸収して、酸素を提供する、という話はウソと決めつけてよいでしょう。
いろいろと調べてみたのですが、地球の二酸化炭素を減少させた主役は植物ではなく、上記Step.1、Step.2に加えてStep.3があったようなのです。
(Step.3)二酸化炭素は、雨に解けて、海に流れこんで石灰石となった(参考資料)。
つまり、
――酸素を作ってきたのは「植物」だけど、二酸化炭素を減少させたのは「雨」だった
と、いうことです。
そして、この「雨」は、40億年の月日を経て、地球上の二酸化炭素をほぼ消滅させてしまいました(40億年前:81%→現在:0.04%、参考資料)。
地球の「雨」は、これからも、貴重な温室効果ガスであるCO2を減らし続け、最終的に、地球を人類の住めない極寒の惑星に変えてしまうことでしょう。ならば、私たちが、せっせとガソリンや灯油を使い続けて、CO2を排出して、地球を温め続けていることは、
―― 人類存続のために必要な行為
とも、強弁することもできるかもしれません。
しかし、電卓を叩いてみたら、「雨」によるCO2の削減スピードは、年間平均0.00000002%((81%−0.028%)/40億年)ですが、ここ200年のCO2の増加スピードは、年間平均0.00006%((0.040%−0.028%)/200年)でした。約3000倍です。
つまり地球が3000年かけて減らしてきたCO2の量と、今年1年で増えたCO2の量が同じということです。
大気中のCO2の総量は確かに少ない(0.04%)です。
しかし、私たちは、わずか1年間で、30世紀分のCO2の総量が変化してしまう程(しかも逆方向に)、過激な時代に生きているのです。
さて、今回は、地球温暖化問題で目の敵にされている二酸化炭素(CO2)そのものについて、電卓だけで調べてみました。
を説明しました。
次回は、大気全体の0.04%にも至らない微量のCO2が、どういうメカニズムで地球を温暖化するのか、数字を回して御説明したいと思います。
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江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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