今回は、いよいよ環境問題シリーズの最難関である「京都議定書」を、比喩を使って解説したいと思います。おそらく、こんな比喩を用いて京都議定書を説明した例は、かつてなかったのではないでしょうか。なお、お食事中の方は、本稿を読むのをお控えください。
これまで、私は、本連載「世界を「数字」で回してみよう」において、「人間」をメタファーとして使ってきました。
などです。
私は、「私たちの生活に最も身近な『私たち自身』を使うことで、多くの人に数字の意味を理解してもらおう」 ―― などと思ったことは、一瞬たりともありません。
結論から言うと、私自身が、数字の意味を理解できないのです。何とか原稿締切日までに、数字の意味を理解するために、頭の中でメイドやらゾンビやらを登場させて、ようやく自分で理解するに至っているわけです。
特に今回は、「仕組み」を解説しなければなりませんでした。ですが、仕組み自体が難しい上に、政府や省庁の発表する資料の内容が絶望的に分かりにくくて、本当に困っていたのです。
ところが、締め切り48時間を切っていた日の深夜、冬の寒空の下を歩いている私に、突然、天啓のように神が降りてきましたのです。
―― 来た、来た、来た、来た、来たーーー!!
「これで、今月もなんとかしのげそうだ」と、ホッとしながら、足取り軽く帰宅を急ぐ私に、別の心配がわき起こってきました。
―― この内容で、EE Times Japan編集部は、原稿を受けとってくれるかなぁ。「ウンコ」と「トイレ」が頻出する原稿を。
(※編集注:ワードを開いた瞬間、目に飛び込んできた「ウンコ」の文字のオンパレードに度肝を抜かれました)
こんにちは、江端智一です。
今回は京都議定書を、数字で回してみたいと思います。
ただ、京都議定書に関する問題点、批判などは、検索して頂ければゴロゴロ出てきますので、その手の話は全部スルーして、「数字」と「仕組み」に関する事項にこだわってみたいと思います。
まず、京都議定書というものを調べてみました。
京都議定書で最も重要な記載は、最後のページに登場する附属書Bに記載されている「国名と数値を記載した表」です。その数値とは、その国が約束した温室効果ガスの削減量です。
京都議定書は、この表を世界中に公開する(さらす)ことで、「もし約束が守れなかったら、お前の国は世界中の笑い者だぞ」と威嚇していると考えてよいでしょう。
さて、「その国が約束した削減量」とは、1990年にその国が排出していた温室効果ガス(CO2を含む6種類)の量を基準(100%)として、2008年から2012年の間に削減することを約束した値です。日本の場合は「1990年を100%とした時に94%とすること」、つまり6%の削減を約束していたわけです。
あれ? ……2012年? 京都議定書の実施期間、もう終わっていますね。
慌てて調べてみたら、今や日本は京都議定書の延長に反対の立場を表明しており、2012年後の第2期(2013〜2020年)においては数値目標を持たない国=削減義務のない国としてのみ参加しています(離脱してはいないようですが)。
「京都」という日本の地名を冠する議定書に、わが国が実質的に参加していないというのは、ただごとではないように思えます。それでは、「京都議定書の試みは失敗だったか」と調べてみたところ、2015年2月、京都議定書の第一約束期間(2008〜2012年)の全体の削減幅は目標の5%を大幅に上回る22.6%で達成と、ニュースに出ていました(参考記事)。
そんなメチャクチャな過達目標達成があり得るのか? それとも初期目標の設定ミスか? と考えながら、ふと「あ、そういえば、日本の達成状況はどうなっているんだろう」と思いつき、調べてみました。
わが国のCO2削減目標「6%」は、―― 国内のCO2排出量が増えているのにもかかわらず ――「8.4%」の過達達成となっていました。もう、私には、全然理解できない話でした(後で分かります)。
それじゃあ、京都議定書は、2008年から5年間だけの「期間限定のお祭り」のようなものだったのかといえば、そうでもないようです。
次の気候変動枠組み条約締約国会議(COP21、2015年末にフランス パリで開催予定)で、ポスト京都議定書(「パリ議定書」とでも呼ばれるようになるのか?)の最終合意を目指すことになっているようです。
上記の私の疑問について、全てを解説しますと、それだけで、あと連載3回分くらいは必要になりそうなので、今回は割愛します。ただ、京都議定書は、その背景や歴史的経緯が分かっていないと楽しめませんので、以下の図をご一読ください。
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