赤い微生物「ジオバクター」を使用した燃料電池(MFC:Microbial Fuel Cell)による廃水処理技術の開発が進んでいる。廃水中にふくまれる有機物を、電気に変換しながら分解することで、大幅な省エネを実現する上に、汚泥の発生も最小限にする仕組みだ。2015年6月5日〜6日に行われた「東大駒場リサーチキャンパス」において、同技術の取り組みについて聞いた。
赤い微生物「ジオバクター」を使用した燃料電池(MFC:Microbial Fuel Cell)による廃水処理技術の開発が進んでいる。微生物燃料電池は、微生物の代謝能力を利用して有機物などの燃料を電気エネルギーに変換する装置だ。
正極(カソード)と負極(アノード)があり、負極では、微生物が燃料(有機物)を分解することで発生する電子を回収。正極では、その電子が酸化剤の還元反応により消費される。2015年6月5〜6日に行われた「東大駒場リサーチキャンパス」で、先端科学技術研究センターの橋本研究室がデモを公開した。
この研究の背景には、現在一般的な活性汚泥による廃水処理の2つの課題がある。
1つ目は、多くのエネルギーを消費することだ。活性汚泥法には酸素がないと活動できない好気性の微生物を利用している。そのため、廃水中に空気を吹き込む曝気(ばっき)処理が必要になり、ここで多くのエネルギーを消費してしまう。その量は全国の総電力消費量の約0.6%に当たるという。
2つ目は多くの汚泥が発生することである。廃水中の有機物を分解する、好気性微生物を多量にふくんだフロック*)が沈殿すると、多量の汚泥が発生してしまう。その量は全産業廃棄物の約20%に相当するという。
*)フロック:汚濁物質を分解する働きをもつ微生物の集合体
これらの課題を解決するのが、赤い微生物ジオバクターだ。嫌気性のジオバクターは、酸素がなくても活動できるため、曝気処理が不要になる。その分だけ、既存のシステムに比べてエネルギーの消費を少なくできる。さらに、廃水中の有機物から電気エネルギーも取り出せるので、廃水処理に必要なエネルギーに利用することも可能だ。
また、処理層内で微生物が得るエネルギーの大半が発電に使われることから、微生物の増殖が抑制され、汚泥発生量が活性汚泥法に比べて70〜80%削減できるという。つまり、産業廃棄物の削減につながるのだ。
同研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託されたプロジェクト「微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発」である。東京大学の他、神戸大学、東京薬科大学、積水化学工業とパナソニックが参加している。
東京大学が担うのは、微生物燃料電池における触媒の開発だ。現在、カソードで使われている触媒はプラチナ・炭素(Pt/C)。しかし、プラチナは非常にコストが高い。同研究室によると、「現状の1/10以下のコストにしなければ実用化は難しい」という。
そこで、現在はカソードやアノード触媒の開発が進んでいる。例えば、カソード触媒では、Fe(鉄)・グラフェンや、N(窒素)・グラフェン、Fe/N・グラフェンといった触媒の開発を進めているという。担当者によると、これらはコストを下げるだけでなく、廃水処理の効率を上げる効果があるそうだ。
NEDOのプロジェクトとしては、2015年度で終了する予定だが、今後は企業と連携して、より大きな規模での実証実験を行いたいとしている。
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