東北大学とNECは2014年2月、スピントロニクス論理集積回路技術を応用した完全不揮発性マイクロコントローラ(マイコン)を開発したと発表した。無線センサー端末向けのマイコンで、動作実験の結果、消費電力は従来のマイコンの1/80だったことを確認したという。
スピントロニクスは、電子の持つ性質である「電荷」と微細な磁石である「スピン」の双方を利用する技術を指し、電流の方向によって磁石のN/Sを反転させて演算結果を記憶させる磁性素子などを実現できる。
磁性素子は、不揮発性である他、書き込み/読み出し速度が速く、書き換え耐性も非常に高いという利点を持つ。論理回路のレジスタ部などに磁性素子を用いることで「不揮発ロジック」を実現できる。
従来の論理回路であれば、レジスタのデータを保持するために電源を供給する必要があった。そのため、論理回路の電源を落とす場合には、SRAMなどのキャッシュメモリにデータを転送する必要があり、電源遮断までに時間を要した上、キャッシュメモリは揮発性のためメモリへの電源供給が必要だった。磁性素子で論理回路、メモリを不揮発化できれば、小まめに電源を遮断することができ大幅に待機電力を抑えることができるようになる。
今回、東北大学とNECは、磁性素子を用いた不揮発性論理回路と不揮発性メモリで構成した無線センサー向けのマイコンを開発した。
90nmプロセスを用いたCMOS回路に3端子の磁性素子を組み合わせて、不揮発性論理回路と不揮発性メモリを併せ持つマイコンを作成。同時に、論理回路中の機能ブロックごとの電源をオン/オフ制御できる電源制御回路を開発し実装した。電源制御回路は、CMOS回路のみで構成した従来のロジックLSIでも搭載されるが、メモリからのレジスタの読み出し/書き込みなどが必要でオン/オフにミリ秒単位の時間を要する。一方、今回の不揮発マイコンでは、電源オン時間は約120n秒と高速であり「FeRAMを用いた不揮発論理回路と比べても3倍程度高速」とする。
さらに、消費電力が比較的大きい不揮発レジスタへの書き込み電力を削減するため、不揮発素子への書き込みを命令するCPU回路を開発した。この回路は、電源オフ状態になる直前にだけ書き込みを命令したり、書き込み前後のデータが同一の場合には上書き処理をキャンセルしたりといった緻密な制御を行い、書き込み回数を最小限に抑えて、消費電力の増大を抑える効果がある。
これらの回路技術の搭載により試作した不揮発マイコンを使い、無線センサー端末での動作を想定した実験を行ったところ、「消費電力を従来比1/80に削減することに成功した。ボタン電池1つでも、10年程度動作できるセンサー端末が実現可能だ」(NEC)という。
実用化時期については、「センサー端末用のマイコンとしては、基本的に実用化レベルにあることは今回の試作で確認できた。マイコンを使用する立場としては、2017年ぐらいには実用化したいと考えている」(NEC)とする。今後、スピントロニクス応用デバイスの量産技術開発などを手掛ける東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターが中心となって、量産技術の確立などを進めていく方針。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.