MWC 2016において、ある兆候が示された。5Gの物理的なコネクティビティについては、もちろん今でも重要視されているが、今回はそれに関する議論の内容が、5Gのネットワークスライシングやネットワークの仮想化といったテーマへと確実に移行し始めたのである。
これはまさに、Ciscoが、5G市場に参入する上での入り口になると考えている分野だ。
同社はMWC 2016において、EricssonとIntelとの間で次世代に向けた協業関係を構築し、5Gルーターの開発に取り組んでいく予定であることを発表した他、IoT関連の取り組みではAT&Tとパートナー契約を締結したことも明らかにしている。
またCiscoは、新しい仮想化モバイルサービスプラットフォーム「Cisco Ultra」を発表した。今後さまざまな業界が、独自のサービス向けに一部のネットワークだけを要求するようになると見込まれることから、Cisco Ultraを開発したことで、携帯通信事業者が新しいサービスをより効率的に開発、導入できるようにしていきたい考えだ。
5Gシステムは、個々のハードウェア専用の物理ネットワークを構築するのではなく、さまざまなサービスに対応できる“プラットフォーム”のようになりつつある。
Robbins氏は、「さまざまなサービスに対応するには、サービスプロバイダーが要となる。サービスプロバイダーは、自動車やデータマイニング、製造事業など、どのようなサービスに対しても、求められるセキュリティと通信速度、信頼性、通信性能を備えた5Gネットワークを提供しなければならない」と述べる。
では、自動車メーカーが5Gネットワークに対して求めるのは、どのようなサービスだろうか。自動車業界では、ネットワークへの接続性やネットワークスライシングを導入する準備は、どのくらい進んでいるのだろうか。
Robbins氏によると、「自動車メーカーは、予想以上に迅速に準備を進めている」という。
例えば、Tesla Motorsは、ネットワークを介してソフトウェアをダウンロードすることで、新機能を追加できる自動車を開発しているという。Tesla Motorsの他にも多くの自動車メーカーが、より良い情報や、危険を回避できるサービスを提供することで、大事故の発生を防止することに関心を持っている。
CiscoのCTO(最高技術責任者)でエンジニア部門のシニアディレクターを務めるChristian Martin氏は、「さまざまなサービスを提供するには、ネットワークスライシングが必要だ」と主張する。
Martin氏はまず、自動車メーカーにとって、最もコストのかかる問題について語った。同氏は、「それは、リコールだ」と述べる。
「“事前対策的なリコール”や“防止のための分析”など表現はさまざまだが、どの自動車メーカーも、全面的なリコールに至る前に問題に対処するための対策をとっている」(Martin氏)。同氏は最近、General Motors(GM)について言及した際に、「自動車メーカーは、新モデルが市場に出て特性が明らかになる時期には特に、問題の検出やリコールの阻止に必死になっている」と述べていた。
Martin氏は、「自動車メーカーは、自動車の性能を最適化し、新たな機能を追加できるようにしたいと考えている。当然、ソフトウェアの更新のためにネットワークスライシングを導入するだろう」と述べている。
さらに、自動車業界でネットワークを必要とするのは、自動車メーカーだけではない。自動車メーカーに部品を納品する、いわゆるティア1サプライヤーなどもそうだ。Martin氏は、「エンジンやブレーキなどの部品が正しく機能することを確認するために、部品メーカーにとってもネットワークスライシングは必要だ」と指摘している。
運送業についても考えてみよう。冷蔵コンテナを積載したトラックの場合、ネットワークスライシングが導入されれば、全ての冷蔵コンテナの温度を監視できるようになるだろう。
ネットワークスライシングは、車載エンターテインメントにも関係している。「『Hulu』のようなエンターテインメントサービスプロバイダーも、動画を配信するためにネットワークスライシングを導入するかもしれない」とMartin氏は述べている。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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