自動車とオーナーの間の距離を測る仕組みを、スマートキーシステムに追加するのである。現行のシステムでは、スマートキーから発信される電波だけで「オーナー」だと判断しているので、電波をコピーされると「そのオーナーは偽物である」ことを見破れない。だが、ISP1510を、自動車とスマートキーの両方に搭載することで、自動車とオーナー(=スマートキーの持ち主)の距離を計測でき、「車から1m以内にスマートキー本体がなければドアロックを解除できない」「50cm以内になければエンジンをかけられない」といったように、物理的な距離を基にオーナーが本物かどうかを判定できるキーレスエントリーシステムを構築可能になる*)。
*)当然のことながら、スマートキー自体を盗まれたら、それはもう仕方がない。
Beghin氏は、「特に欧州では、車両盗難のうちかなりの比率をスマートキーリレーアタックが占めている。スマートキーリレーアタックに悪用できるソフトウェアも安価に手に入るため、問題は深刻になる一方だ。欧米の自動車業界は、われわれが提案するISP1510の用途に非常に関心を持っている」と語る。
Insight SiPは、ISP1510のUWB通信距離を最大30m(保証値)としているが、Beghin氏によれば約70mでも通信できるという。空間分解能は10cm以下としている。
Beghin氏は、自動車以外のターゲット市場として、入室管理システムやドローンの飛行位置の監視などを挙げた。
Beghin氏によると、ISP1510の設計で最も苦労した点は、BLEとUWBの2本のアンテナをどう搭載するかだったという。アンテナ間の距離は長い方が干渉しないが、だからといってパッケージサイズを大きくするわけにはいかない。「限られたスペースの中に、2.4GHz帯を利用するBLEのアンテナと、5GHz/10GHz帯を利用するUWBのアンテナをどう実装するかが課題だった。2.4GHz帯で発生するスプリアスは5GHz/10GHzに近いので、アンテナ間の距離が近いと干渉してしまう。アンテナの位置を最適化し、フィルタリングやチューニングなどで調整を図った」(同氏)
ISP1510のエンジニアリング・サンプルは欧州の顧客4〜5社に提供している。量産は2017年第3〜第4四半期の予定だ。なお、ISP1510は、UWBの周波数帯が5GHz/10GHzであることから、現在は日本向けではなく欧米向けの仕様となっている。日本国内で使用するには、7.25GHz〜10.25GHz帯*)で使用できるように調整する必要があるが、「その調整自体はさほど難しいことではない」とBeghin氏は述べている。
*)3.4GHz〜4.8GHz帯でも使用できるが、干渉を軽減するための技術(DAA:Detect And Avoidance)が必要になるので、7.25GHz〜10.25GHz帯を使用する方が実用的だ。
Beghin氏によれば、ISP1510のターゲット単価は10米ドル以下だという。同氏は、潜在市場としては年間で数百万個の規模があるとみていることから、量産の数によっては、より低価格で提供することも将来的には可能になるだろう。
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