こんにちは、江端智一です。
今回は、ついに、「人身事故、物理シミュレーション編」の、最終フェーズになります。
前回の「4つの事前検討」において、私は、飛び込み自殺で、
―― 確実に即死できる、と思いますか?
という疑問を投げかけて、前回のコラムを終了しました。
今回は、この疑問に対して、数字とシミュレーションに加えて、医学分野に携わる方のアドバイスも加えて検証を行いたいと思います。
今回は、私のコラムを読んでいただいているお医者さま、シバタさん(匿名希望)のご協力をいただくことになりました。シバタさんとは、前回のコラムの「介錯の物理学」での、切腹に関する江端の見解に対するご助言をきっかけにメール交換をさせていただいております。今回、シバタさんの許諾をいただき、メールの全文を公開しておりますので、興味のある方はこちらをご一読ください*)。
*)最近、専門家の方(数学分野、医学分野)から、丁寧なご意見を頂き、本当に助かっています。これからも、皆さん、遠慮なく私を助けてください。
さて、前回のコラムでは、「飛び込み自殺」の本質は、列車との衝突にあるのではなく、列車の車輪によって轢断され続け、身体をバラバラにされる点にあることを、明らかにしました。
轢断による死とは、つまるところ「出血多量」による死ということです。血液の目的は、体のすみずみに、絶え間無く酸素と栄養を運び続けること*)ですから、これが、短時間で大量に失われれば、人体というシステムを維持できなくなる、つまり「死に至る」のは当然です。
*)「部分痩せは可能なのか? (後編)」
そこで、私は今回、「出血量」に着目して、「飛び込み自殺」を再検討しようとしました。
具体的には、電車で手足を切り落とされても、かなり長いこと死に至らずに生き続けうるのではないか? という疑問に基づく再検証を試みようとしていました(具体的な内容はこちら)。
この私の疑問に対して、今回、シバタさんは、医学的知見に基づく完璧なレポートを(無償で)作成し、私に(無償で)送ってきてくれました。そして、そこには、私が知りたかったことのほぼ全てが記載されていました(シバタさんのレポートはこちら)。
今回、シバタさんの許しをいただき、このレポート(以後、「シバタレポート」といいます)をベースに(というか、ほとんどそのまま流用して)、検討を行っていきたいと思います。
まず、人間の出血量というのは、場所によって、かなり異なるという(自明の)事実の確認からスタートします。
このように、同じ動脈からの出血においても、相当な差があることが分かります。今回、私は初めて「リストカット」ついて調べたのですが、「リストカット」が自殺を目的としたものではなく、もっぱらストレスなどによる自傷行為であることを知りました。
「リストカット」で自殺するには、手首の脈を測る血管をバッサリと切った上で、水を張った風呂桶に、腕ごと突っ込んでおく必要があります。血液を凝固させないようにするためです。
そのような理想的な出血を促したとしてもなお、意識不明までは、40分程度はかかるようです。苦痛が長い上に、恐怖を味わう時間も長いので、個人的にはお勧めできない自殺方法です。
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