基礎研究の成果を発表するコーナーでは、光パラメトリック発振器(OPO)を用いて、組み合わせ最適化問題を高速に解く「量子ニューラルネットワーク(QNN)」を紹介する。2016年10月に発表した技術である(関連記事:2000ノードの組合せ最適化問題、解探索に成功)。
このQNNシステムでは、長さを厳密に制御した長距離(1km)光ファイバー共振器中で、特定の位相の光だけを増幅することで、数千個以上のOPOパルスを一度に発生させる。OPOパルス群の位相と振幅の測定結果から得られた結合信号を、各OPOにフィードバックすることを繰り返しすうちに、最初はほとんど雑音に近い状態だったパルス群の位相が「0」か「π」に決まっていき、最終的にはエネルギー的に最も安定した状態に落ち着く。
QNNシステムを使って、ノード数が2000の最大カット問題を解いたところ、1万分の1秒以下で高速に解いた(1万分の1秒以下で、エネルギー的に最も安定した状態にたどり着いた)という。NTTによれば、従来の高性能コンピュータに比べて約50倍の高速化を実現できたとしている。
NTTは、このQNNを、無線通信システムのチャンネル最適化や創薬の分野などに応用したいと考えている。「創薬の分野ではスーパーコンピュータ(スパコン)を利用して、新しい化合物の生成などが行われる場合もあるが、スパコンはとにかく消費電力が大きい。光を使ったQNNなら、大幅に低消費電力化できる」(NTT)
NTTは、QNNシステムを、2017年秋をメドに外部ユーザーに試用版として提供を開始する予定だ。

QNNのデモの様子。位相と振幅をFPGAで計算したフィードバック信号を、OPOパルス群(サイン波のようなものが並んでいるもの)に重畳するというサイクルを繰り返す(左)ことで、OPOパルス群がエネルギー的に最も安定した状態を探す。最も安定した状態になると、「解が出た」ということになる。解が出ると、OPOパルス群の動きは止まる(右)(クリックで拡大)NTTが、ここ数年のR&Dフォーラムで展示に力を入れている、プロジェクションマッピング技術「イマーシブテレプレゼンス技術 Kirari!(以下、Kirari!)」の上映も行われる。Kirari!は、スポーツ競技や公演などをリアルタイムで遠隔地に伝送し、あたかも目の前で競技や公演が行われているかのように再現する技術だ。今回の記者説明会では、同じ建物の別室にいる技術者を、記者発表会の場にKirari!で映し出していた。Kirari!のデモ動画は、こちらの記事でご覧いただきたい。
NTTのVR(仮想現実)および触覚コミュニケーション技術を使って、プロテニスプレイヤー錦織圭選手のサーブを体験できるコーナーもある。触覚コミュニケーションによって、ボールが(仮想的に)ラケットに当たった時に、ラケットや、腹部や背中に取り付けた振動子が適切なタイミングで振動するので、まるで本当にサーブを受けているような感覚を味わえるという。
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