今回から、モバイル端末向けのパッケージング技術について解説する。大きく分けて、ウエハーレベルのファンアウトパッケージング(FOWLP)、パネルレベルのファンアウトパッケージング(FOPLP)、プリント基板へ回路素子を埋め込むパッケージング(ESP)がある。まずは、パッケージング技術における「ファンアウト」の意味を確認しつつ、Infineon Technologiesが開発した“元祖FOWLP”を説明したい。
2016年12月に開催された国際学会IEDMのショートコース講演(技術解説講演)から、「システム集積化に向けた最先端パッケージング技術(Advanced Packaging Technologies for System Integration)」と題する講演の概要をシリーズでご紹介している。講演者はシリコンファウンダリ最大手のTSMCでシニアディレクターを務めるDouglas Yu氏である。なお講演内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、Yu氏の講演内容を筆者が適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
前回は、Intelが開発した、2.nD(2.n次元)の高性能・高密度パッケージング技術「EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)」の概要をご報告した。EMIBは高性能コンピューティング向けのパッケージング技術として製品化されている。
今回からは、モバイル端末向けの最先端パッケージング技術に関する講演パートに入ろう。講演パートは大きく3つに分かれている。始めは、ウエハーレベルのファンアウトパッケージング(FOWLP:Fan Out Wafer Level Packaging)技術、次は、パネルレベルのファンアウトパッケージング(FOPLP:Fan Out Panel Level Packaging)技術、最後はプリント基板へ回路素子を埋め込むパッケージング(ESP:Embedded Substrate Packaging)技術である。
上記3種類のパッケージング技術の中で、最初の2つには「ファンアウト」の語句が入っている。ここで「ファンアウト」とは、論理回路素子(NANDやNORなど)の出力数(ファンアウト)ではない。同様にパッケージング技術には「ファンイン」という用語が存在する。これも論理回路素子の入力数(ファンイン)ではない。まったく違う意味の単語なので、確認しておく。
パッケージング技術で「ファンアウト」と「ファンイン」とは、シリコンダイの入出力パッドから、どのように配線を引き回してパッケージの入出力端子にレイアウトするかの違いを指す。「ファンアウト」だとパッケージの入出力端子はシリコンダイよりも大きな面積に展開される。シリコンダイとパッケージをつなぐ配線群は、シリコンダイの外側に引き回される。上から見ると、入出力端子が外側に広がっているように見えるので、「ファンアウト」と呼ぶ。
「ファンイン」は、「ファンアウト」タイプのパッケージング技術が登場したことによって、従来のウエハーレベル・チップスケールパッケージ(WLCSP)を指す用語として生まれた。シリコンダイの入出力パッドは周辺あるいはエリアに配置されているのに対し、パッケージの入出力端子はエリアアレイ配置になっている。配線群はシリコンダイの内側に引き回される。上からみると、シリコンダイの周辺から内側にパッケージの入出力端子がすぼまっていくように見えるので、「ファンイン」と呼ぶ。
従来の超小型パッケージング技術であるWL-CSP(ファンインタイプのウエハーレベルパッケージ)には、シリコンダイとプリント基板の熱膨張係数の違いによってパッケージの大きさが限定されるという制約があった。約6mm角前後が、WL-CSPの最大寸法である。このため、数多くの入出力端子を収容できない、複数のシリコンダイを搭載できない、といった弱点を抱えていた。
これに対してファンアウトのウエハーレベルパッケージング技術、すなわちFOWLP技術は、パッケージの入出力端子を配置する領域が広いので、数多くの入出力端子を収容できる。さらに、複数のシリコンダイを搭載可能である。
最初のFOWLP技術は、半導体メーカーのInfineon Technologiesが2006年に開発したeWLB(embedded Wafer Level Ball grid array)技術である。eWLB技術は、現在まで連なるFOWLP技術の基本要素をおおむね、備えていた。すなわち、ファンアウト構造による多ピン対応、再配置配線構造を備えながらも樹脂基板が存在しない、パッケージの外形寸法が極めて低い(薄い)、電気的な特性に優れている、放熱特性が良好である、などだ。
eWLB技術によるパッケージの再配置配線層は2層構造で、配線幅/間隔は10μm/10μm、配線金属は銅(Cu)である。パッケージの入出力端子はハンダボールで、ピッチは0.5mm。パッケージの大きさは12mm角である。パッケージの高さは0.5mmしかない。この薄さが、モバイル端末向けのパッケージング技術として適している大きな理由である。
(次回に続く)
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