IEEE 802.11axという次世代の規格もある。屋外での利用状況の改善を狙うもので、多くのユーザーが存在する高密度な環境における平均スループットを、802.11acに比べ最大4倍にするという規格だ。既にQualcommが、802.11axに対応するチップセットを発表している。Robinson氏は、「2020年までに、802.11axがモビリティを向上し、高密度な環境において優れたユーザーエクスペリエンスを提供できるだろう」と語った。
より高速な認証と、セキュリティを強化した「Wi-Fi CERTIFIED Vantage(以下、Vantage)」の展開にも注力する。Vantageは、Wi-Fi接続技術のブランド名のようなもので、「Passpoint」とWi-Fi CERTIFIED acのコンセプトに基づいて構築されている。Passpointとは、Wi-Fiの通信規格の1つで、アクセスポイントへの認証動作を不要にするものだ。Robinson氏は「具体的に何秒と言うことはできないが、Vantageによって、かなり高速にアクセスポイントに接続できるようになる」と説明した。
Robinson氏は、「Wi-Fiのユースケースがこれまで以上に幅広くなっている」と述べ、「IoT(モノのインターネット)向けに低消費電力で長距離通信を行う規格『HaLow(ヘイロー:IEEE 802.11ah)』もあるが、多くのユーザーがWi-Fiに期待していることは、やはり、高速、大容量通信だと認識している」と続けた。60GHz帯以外のミリ波帯の使用に関しては、「FCC(米連邦通信委員会)が、5G向けにライセンス不要の帯域として64G〜71GHz帯を割り当てると発表したこともあり、その周波数帯を使用する可能性もあるだろう」と述べた。
基本的には高速、大容量の方向を目指すWi-Fiだが、Robinson氏は「Wi-Fiとセルラーネットワークは、互いに補完的な役割を果たしながら、存在感を維持する」と述べた。
「Wi-Fiの強みは、多様なビジネスモデルに対応できる点だ。例えば、(サービスの一環として)無料Wi-Fスポットを提供し、セルラーネットワークからのオフロードを図っているオペレーターもいれば、有料Wi-Fiスポットを設けて、そこで高速通信を提供するオペレーターもいる。オペレーターが接続性を維持するにはWi-Fiが重要な要素になっている」(Robinson氏)
Robinson氏は、「これは断言できるが、今Wi-Fiがなくなったら、セルラーネットワークは確実にクラッシュする」と強調した。「米国のオペレーターの中には、セルラーネットワーク上で無制限のデータ容量を提供するプランを提供している事業者もいるが、接続性が低下しているという声も聞く。Wi-Fiと併用することが、オペレーターにとっても重要になっている」(同氏)
無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)の会長を務める小林忠男氏も、「光ネットワークの先にWi-Fiがあるという状況が、当たり前になったと感じている。つまりは、オペレーターが“光の先(=ルーター)”のネットワークとして、きちんとWi-Fiに対応しなくてはいけない時代になった」と話し、5GとWi-Fiで“ワイヤレスの新時代”がくると語った。
Wi-Fi Allianceは、新しい認証プログラムとして「Wi-Fi CERTIFIED Miracast」と「Wi-Fi CERTIFIED TimeSync」を発表した。Wi-Fi CERTIFIED Miracastは、ケーブルやネットワークを介せず、デバイス間でマルチメディアを表示するための規格だ。ソニーやパナソニック、シャープ、エプソン、トヨタ自動車などの日本メーカーも、自社で開発したデバイスについてWi-Fi CERTIFIED Miracastの認定を進めているという。Wi-Fi CERTIFIED TimeSyncは、ワイヤレスデバイス間で正確に時刻を同期するための規格で、オーディオやビデオをはじめ、共通の基準時刻が必要になる、自動車や工業、医療、IoTといった分野をターゲットとしている。
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