こんにちは。江端智一です。
今回は、政府が主導する「働き方改革」の項目の1つである、「非正規雇用」について考えていきたいと思います。
政府が「非正規雇用」で掲げている課題は、(私が、乱暴に理解した範囲では)以下の2つです。
まず上記の(A)については、「同じ内容、同じ質、同じ時間の内容の労働に対しては、同じ価格の賃金が払われるべきである」ということであり、極めてまっとうな内容です。
しかし、今回は、「同じ内容、同じ質、同じ時間の内容の労働」というものを、定量的に評価する手段が存在しない ―― というか、その定量的な測定については「諦らめざるを得ない」という実体を明らかにしたいと思います。
さらに上記(B)の「『非正規』という概念の撤廃」が、会社側、労働者側、そして、その「非正規労働」の当事者すらからも、「必ずしも望まれている」とは限らないこと、そして、過去において「非正規雇用」が存在しなかった時間は1秒もなく、未来においてもその可能性が絶望的に小さいことを、数値シミュレーションも交えて説明致します。
さらに、上記(A)と(B)が困難であることを踏まえた上で、なお、この問題を看過し続けると、長期的にどえらい不利益がわが国にもたされることになることも示します。
つまり、「非正規雇用」というものが、「どれもこれも、誰からも協力を得られず、うまくいきそうにない上に、それでも、この問題に対応しないと、日本国民全員が不幸になる」という ――非常に深刻で面倒で、厄介な問題であることを明らかにしたいと思います。
最初に、「非正規雇用」について整理してみます。
ざっくりまとめると、非正規雇用の構成要件は2つです。(1)雇用期間の定めがあること、(2)労働賃金以外に保証がないことです。基本的には「正社員でない = 非正規雇用」という理解でO.K.です。
ただ、保証がないくせに、"サービス残業"や"休日出社"はあるという、「名ばかり正社員」は、「正規雇用」ではないので、注意する必要があります。
「名ばかり正社員」なるものが存在する理由は、「正社員」という言葉にブランド価値があるということなのでしょう。クレジットカードを作る時とか、ローンを組む時とか、彼女の両親にプロポーズの報告をしに行く時には、利用価値はありそうです。
一般的に「非正規雇用」には悪いイメージが伴いますが、非正規雇用には、デメリットだけでなく、当然メリットもあります。それも雇用側(会社)にとってだけでなく、被雇用側(従業員)にとってもです。
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